子育て経験が保育士にもたらす専門性向上と、見えにくい負担とは?
結論から言うと、子育て経験は保育士の「保護者理解」「子ども理解」を深め、専門性を高める大きな財産になります。
一方でその裏では、
- 仕事と育児の両立による疲労
- わが子との関わり時間の不足
- 保育ではできるのに家庭ではできない葛藤
といった負担も生じています。
つまり、子育て経験のある保育士は園にとって貴重な存在である一方、その人材を支える職場環境づくりが不可欠だということです。
今回は、磯部美良さん・中川菜歩さんによる研究
「子育て経験が保育士の認識・専門性・行動に及ぼす影響」をもとに、このテーマを解説します。
論文概要
タイトル:子育て経験が保育士の認識・専門性・行動に及ぼす影響
著者:磯部美良・中川菜歩
所属:武庫川女子大学/藤井寺市立第四保育所
研究方法:子育て経験のある現役保育士5名への半構造化インタビュー調査
本研究では、
- 子育て経験によって保護者や子どもの見方がどう変化したか
- 保育経験は子育てにどう活きるか
- 園児とわが子への関わりに違いはあるか
を分析しています。
子育て経験は保育士をどう変えるのか?
1. 保護者への共感力が高まる
研究で最も大きかった変化は、保護者理解の深化でした。
子どもを持つ前は頭で理解していたことも、実際に経験すると見え方が変わります。
たとえば、
- 仕事後のお迎え
- 帰宅後の夕食準備
- 寝かしつけまでの慌ただしさ
などを経験することで、
「ほんまの意味で『わかります』と言えるようになった」
という声がありました。
その結果、
- 保護者に寄り添った言葉がけ
- 現実的なアドバイス
- 無理を強いない関わり
ができるようになったそうです。
2. 子ども理解も深まる
子育て経験によって、
- 甘えたい気持ち
- 家庭での疲れ
- 発達の個人差
への理解も深まります。
「保育園に来ているだけでも頑張っている」と捉えられるようになった保育士もいました。
つまり子育て経験は、
子どもの行動だけでなく、その背景まで理解する視点を育てると言えそうです。
保育経験は子育てにも役立つ
逆に、保育士としての経験も子育てに活かされています。
活かされていたこと
- 生活リズムづくり
- 離乳食や発達知識
- イヤイヤ期への理解
- 声かけの工夫
- 遊びの引き出し
たとえば、
「どうしたら1日がスムーズに進むかを自然に考えられる」
という声もありました。
保育経験は確かに家庭でも武器になっています。
それでも「自分の子には優しくできない」が起きる理由
ここがこの研究の最もリアルな部分です。
1. わが子には厳しくなりやすい
5人中4人が、
園児よりもわが子に厳しくなる
と回答しました。
理由は主に3つです。
時間に追われるから
- 早く準備してほしい
- 食べてほしい
- 寝てほしい
家庭は時間との戦いです。
そのため、
「早くして!」
と言いやすくなります。
感情が乗るから
園では「先生」として冷静でいられても、
家庭では親として感情が入りやすい。
研究でも、
園ではきれいな言葉で叱るが、家では感情が乗る
と語られていました。
期待が大きいから
- ちゃんと育ってほしい
- 将来困らないようにしたい
という願いが、厳しさにつながることもあります。
褒める大切さを知っていてもできない現実
興味深いのはここです。
保育士は褒める重要性を理解しています。
それでも、
5人中2人は「園児の方が褒めている」と回答。
理由はシンプルでした。
疲れているから。
- 仕事
- 家事
- 育児
が重なり、余裕がなくなるためです。
つまり、
知識や技術があっても、環境によって実践できないことがある
ということです。
保育士たちがしていた工夫
研究では、両立のための工夫も紹介されています。
実践例
家に仕事を持ち込まない
家庭時間を守る工夫。
5分でも関わる
忙しくても、
- 遊ぶ
- ハグする
- 抱っこする
など短時間でも濃い関わりを意識。
休日に補う
平日が難しい分、
- 公園
- お出かけ
- スキンシップ
で補う。
完璧を諦める
ある保育士は、
「ご飯なんか最終なんでもいい。子どもの気持ちを満たしたい」
と話していました。
これはかなり現実的で大事な視点です。
まとめ:保育士ママ・パパを支える環境づくりが必要
改めて結論です。
子育て経験は保育士にとって、保護者理解・子ども理解を深める大きな強みになります。
一方で、
- 時間不足
- 疲労
- わが子との関わり不足への罪悪感
といった負担も抱えやすいことが明らかになりました。
つまり、
「保育士だから子育てもうまくできるはず」ではない
むしろ、保育士だからこそ仕事と育児の両立で葛藤しやすい面があります。
だからこそ必要なのは、個人の努力だけではなく、
- 持ち帰り仕事を減らす
- 急な休みに理解ある職場
- 人員配置の余裕
- 家族や同僚の支援
です。
子育て経験を持つ保育士は、園にとっても地域にとっても貴重な存在。
その人材が安心して働き続けられる環境づくりこそ、保育の質向上につながるのではないでしょうか。


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