【論文】「特別養子縁組の親」は、なぜ“弱音を吐きにくい”のか

論文

——家族のリアルな語りから見えた、支援の課題

「特別養子縁組」という言葉を聞いたことはありますか?


ニュースやドラマで耳にしたことがあっても、実際にどんな制度で、どんな子育てが行われているのかを知る人は、まだ多くありません。

今回紹介するのは、2025年に青山学院大学心理学会が発表した、
「特別養子縁組で子どもを迎えた家族の語りから考える子育て支援のあり方」という研究です。

この論文では、特別養子縁組で子どもを迎えた親たちにインタビューを行い、

  • 子育ての中でどんな葛藤があるのか
  • 周囲との関係で何に悩むのか
  • どんな支援を必要としているのか

を丁寧に分析しています。

読んでいて印象的だったのは、

「子どもを愛している」ことと、
「しんどさを感じない」ことは別問題

だということでした。

今回は、論文の内容をわかりやすく紹介しながら、保育士・支援者が知っておきたい視点も含めてまとめます。


そもそも「特別養子縁組」とは?

日本には、

  • 普通養子縁組
  • 特別養子縁組

の2種類があります。

特別養子縁組は、実親との法的な親子関係を解消し、実子と同じ親子関係を結ぶ制度です。

つまり、戸籍上も完全に「親子」になります。

近年は制度改正もあり、件数は増加しています。

しかし論文では、

制度名は知られていても、実態への理解はかなり少ない

と指摘されています。

しかも重要なのがここ。

里親制度には、

  • 手当
  • レスパイト
  • 支援制度

などがありますが、

特別養子縁組は「家族になった」とみなされるため、成立後の公的支援がほぼない。

これが、かなり大きな問題です。


研究で見えてきた「7つのテーマ」

研究では、14人の養親へのインタビューを分析し、内容を分類しました。

特に大きかったテーマは、

  • コミュニティ
  • 真実告知
  • 支援者の偏見
  • 周囲への開示
  • 子育てで生じる思い

でした。

ここから、それぞれ見ていきます。


「真実告知」は、一度話せば終わりじゃない

特別養子縁組では、子どもに

「あなたは養子なんだよ」

と伝えることを“真実告知”と呼びます。

これが、とても繊細。

親たちは、

  • 何歳で伝える?
  • どう説明する?
  • どこまで話す?
  • 産みの親のことをどう伝える?

をずっと考え続けています。

たとえば論文では、

「ママが2人いるの?」

と子どもに聞かれたエピソードや、

「こんなところ来なければよかった」

と兄弟げんかで感情をぶつける場面も紹介されています。

ここで大事なのは、

真実告知は“イベント”ではなく、“成長に合わせて続く対話”だということ。

親は何年も試行錯誤しています。


保育園・学校で起きる「何気ない傷つき」

この研究でかなり重要だったのが、園や学校との関係です。

たとえば、

「本当の兄弟じゃない」

と子どもが言われた経験。

あるいは、

「愛着に問題があるんじゃないですか?」

と保育園側から言われたケース。

制度を知らない無理解だけでなく、

“知っているつもり”の偏見

も、親を傷つけていました。

一方で、

  • 園内研修をしてくれた
  • 先生が学ぼうとしてくれた
  • 担任が丁寧に対応してくれた

という安心できた経験も語られています。

つまり、

「知識がある」だけでは不十分で、

“どう理解しようとしてくれるか”

がすごく大きい。

これは保育にも通じる話だと思います。


「良い親ですね」がプレッシャーになることもある

論文で個人的にかなり印象的だったのがここ。

親たちは周囲から、

  • 立派ですね
  • 良い親ですね
  • 本当の親子みたいですね

と言われることがあります。

でも、それが苦しい。

なぜか。

それは、

「ちゃんとできて当然」という空気になるから。

論文では、

「特別養子縁組なのに、子育てがうまくできていないと思われたくない」

というプレッシャーが語られていました。

だから、

  • 夫婦関係の悩み
  • 子育ての限界
  • イライラ
  • 孤独感

を言えなくなる。

これ、支援職にとってかなり重要な視点です。

“頑張っている親”ほど、実は相談できない。


「支援が必要」と決めつけられる苦しさ

興味深かったのは、

「特別な悩みはない」

と語る親もいたこと。

つまり、

  • 全員が困っているわけではない
  • 特別扱いされたくない人もいる

ということです。

一方で、

「必要な時には、理解のある人に相談したい」

というニーズは強い。

つまり求められているのは、

“常時介入”

ではなく、

“いつでも安心して頼れる状態”

なんですよね。

これは保育相談でもかなり共通しています。


「話すか・話さないか」を常に考えている

親たちは、

  • ママ友には言わない
  • 園には伝える
  • 会社にはタイミングを選ぶ

など、相手ごとに慎重に判断しています。

特に印象的だったのは、

「秘密にしているわけではない。でも、言う必要がない」

という言葉。

これは、“隠している”とは少し違う。

理解されない怖さや、偏見への警戒が背景にあります。


「普通の家族」であろうとする疲れ

研究では、

「家族はこうあるべき、という見えない圧力」

も語られていました。

さらに、

「マイノリティ中のマイノリティ」

という表現も出てきます。

特別養子縁組家庭は、まだまだ少数派。

だからこそ、

  • 周囲にどう見られるか
  • 子どもが傷つかないか
  • “普通”に見えるか

を強く意識してしまう。

でも同時に、

「DNAだけじゃないつながりを感じる」

という温かい語りもありました。

ここが、この研究のすごく大事なところ。

「血縁がないから不幸」、ではなく、
むしろ、深い愛着や家族感覚を築いている家庭も多い。

ただ、その上で“社会の理解不足”が負担になっているんです。


保育士・支援者が知っておきたいこと

この論文を読んで感じたのは、

「特別養子縁組を特別視しすぎない」

でも

「背景への想像力は持つ」

このバランスの重要さです。

たとえば、

  • “本当の親”という言葉
  • 血がつながってる前提の会話
  • 無意識の「立派ですね」

こうした何気ない言葉が、親を孤立させることもある。

一方で、

  • 学ぼうとしてくれる
  • 否定せず聞いてくれる
  • 必要な時に相談できる

それだけで救われることもある。

論文でも、

「理解のある専門家がいること自体が安心になる」

と語られていました。


まとめ

この研究は、

「特別養子縁組の家庭は特別だから大変」

という単純な話ではありません。

むしろ、

“普通に子育てしている”

でも

“理解されにくい部分を抱えている”

というリアルが描かれていました。

そして何より印象的だったのは、

親たちが「子どものために」ものすごく考え続けていること。

真実告知。
周囲への伝え方。
学校との関係。
子どもの気持ち。
将来のアイデンティティ。

その積み重ねの中で、親自身も揺れながら子育てをしています。

だからこそ必要なのは、

「特別視」ではなく、
「理解しようとする姿勢」。

保育士や支援者にとっても、とても学びの多い論文でした。

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