野菜や果物の「重さ」が、視覚に頼らない子どもたちの学びを変える

論文

この記事のまとめ

  • 視覚障害のある子どもにとって、手で触って確かめること(触察)は世界を知るための大切な手段
  • 市販のプラスチック製の野菜・果物の模型(フェイクフード)に、実物と同じ重さになるようシリコンを注入する研究が行われた
  • 重さのある模型を持った幼児は、いつもの遊びをやめ、じっくり確かめるようになった
  • 小学生は、重さ以外の「本物との違い」を細かく見つけて言葉にしていた
  • 「重さ」は、視覚に頼らない子どものための立体図鑑や食育の入り口になりうる

先日、宮城教育大学などの研究チームによる、とても興味深い研究を読みました。テーマは「野菜や果物の模型に重さをつける」というもの。シンプルな工夫ですが、読んでいて何度もハッとさせられました。

触ることは「見ること」の代わりではなく、世界とつながる方法

私たちは目で見て、一度にたくさんの情報を手に入れています。ところが触覚は、一度に分かることが少ない感覚です。指先や手のひらで少しずつ確かめて、その断片をつなぎ合わせて「全体」を頭の中に組み立てていく必要があります。

しかも、ただ手を置いているだけでは十分な情報は得られません。自分から手や指を動かして、こすったり、押したり、包み込んだり、持ち上げたりすることで、はじめて詳しい情報が手に入ります。研究の背景にあったのは、この「自分から動かして確かめる触り方」の大切さです。

視力のある幼児は、物を振ったり叩いたりしながら、目で結果を見て世界を学んでいきます。視覚障害のある子どもは、その結果を手のひらや指先の感覚で受け取って学んでいく。だからこそ、小さい頃から「しっかり触って確かめる経験」を保障することが大切だと、この研究は指摘しています。

プラスチックの模型に「重さ」を作ってみた

研究チームが目をつけたのが「重さ」でした。たとえば型はめの教材では、パーツが枠に「はまった」ことが分かりやすいよう、軽いプラスチックから、ずっしりした木や真鍮の素材に変えることがあるそうです。重さは、目に頼らないフィードバックとして強力なのですね。

そこで、視覚支援学校でままごと遊びに使われている市販の野菜や果物の模型に、シリコンを注入しました。実物の平均的な重さに合わせ、固まる途中で向きを変えて重心のバランスも整えたそうです。

幼児の反応:ピタッと止まり、そっと両手で包む

幼児たちの変化は印象的でした。

普段のプラスチック模型は、指先や爪ではじいたり、前歯にコンコン当てて音を出したりする「感覚遊び」の道具になりがちです。ところが重さのある模型を持ち上げた瞬間、幼児の動きがぴたりと止まり、じっと考えているような様子になりました。前歯に当てることもなく、両手で包み込んで、力を抜いてかすかに揺らし続けていたといいます。

ブロッコリーの模型では、茎を持ってゆっくり上下に回し、重心が変わる感覚を楽しんでいた子もいました。

さらに、先生が本物の野菜や果物を並べて比べてみると、軽い模型なら放り投げてしまう子が、重い模型は本物のように慎重に扱い、そっと顔を近づけて匂いまでかいでいたそうです。「これは大事なものだ」と、手が教えてくれたのかもしれません。

小学生の反応:「本物とここが違う」を次々に発見

小学生は、ままごとの野菜が偽物だとちゃんと知っています。重いブロッコリーの模型を渡された子は、左手で支え、右手で輪郭をなぞるように丁寧に調べ始めました。

「本物のブロッコリーは細い茎の隙間があるけど、これはない」「本物は断面のかたさが違うのに、これは同じでつまらない」「本物の房をこすると小さなカスが出ることがあるけど、これはこすってもかたいだけ」。次々と本物との違いを見つけて言葉にしていきました。

面白いのは、「本物みたい」とつぶやきながらも、重さについては一言も語らなかったことです。重さが本物に近づいたからこそ、重さは「当たり前」になり、残った違いに意識が向いたのではないか。そんなふうにも読めて、とても示唆的でした。

模型が「立体図鑑」になる

研究では、重さを備えたフェイクフードは、視覚障害のある子どもにとっての立体図鑑になりうると述べられています。形、質感、重心の違いを正確につかむことは、概念を作るだけでなく、「食べる」ことへの意識を高め、食育の第一歩にもつながると考えられています。

また、ごっこ遊びは他者の視点を理解したり、共感したり、コミュニケーションを学んだりする大切な機会です。ところが一般的なフェイクフードの「リアルさ」は、形や色といった見た目に頼っています。視覚障害のある子どもは、その恩恵を十分に受けにくい。「知育玩具」とは誰にとっての「知育」なのか、見直す必要があると、論文は問いかけています。

父として、この仕事に関わる者として

私自身、保育園で運営や採用に携わり、いまは学びの多様化学校の運営法人で働いています。子どもたちの「学び方」は本当にさまざまだと、日々感じています。そして家では中1と小2の父です。子どもたちがおもちゃで遊ぶ姿を見ていると、つい「見た目」ばかりを基準に選んでいる自分に気づかされます。

重さという、ほんの少しの工夫が、遊びの質をこれほど変えるということ。そして「誰にとってのリアルか」を考えることで、おもちゃも教材も、もっと多くの子どもに開かれていくということ。今回の研究は、子どもに関わるすべての大人にとって大切な視点をくれたと思います。

なお、これは学会の短い研究発表で、観察された様子が中心の報告です。重さと触察の関係をさらに明らかにすることが今後の課題とされており、続報にも注目したいと思います。


参考:三科聡子・赤井愛・倉田晃希「野菜や果物に『重さ』を作る 視覚障害児の豊かな触察のために」日本デザイン学会 デザイン学研究(第73回春季研究発表大会 B-01-04)

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