この記事のポイント
- ベースとなった研究: 矢崎さやか・安東由則(2025/2026)による研究ノート『“気になる子”に関わる保育士への支援 ―「事例検討型ケース会議」を取り入れた管理職者への聞き取り調査から―』を分かりやすく解説。
- 「気になる子」の対応は1人で抱え込みやすい: 診断前の「気になる子」はサポートの手(加配)がつきにくく、担任や担当の先生がクラス内で悩みを抱え込むケースが全国で多発しています。
- 解決のカギは「みんなで知恵を出し合うケース会議」: 担任と園長などの2人だけで悩むのではなく、他クラスの先生やベテランも交えて集団で話し合うことで、多角的なアイデアや工夫が生まれます。
- 「園全体で育てる」チームづくりが先生を救う: 会議を通じて対応策を共有すると、「1人で頑張らなくていい」という安心感が生まれ、職場全体の雰囲気や保育の質も向上します。
- スムーズな運営には「時間の工夫」と「話し合いのコツ」が必要: 短時間で意見を引き出す工夫や、時には心理などの外部専門家と連携することが成功のポイントです。
「集団行動にうまく入れない」「突然パニックになってしまう」——そんな“気になる子”の保育に、悩んだ経験はありませんか?
今回は、武庫川女子大学の矢崎さやか氏・安東由則教授らによる研究ノート『“気になる子”に関わる保育士への支援 ―「事例検討型ケース会議」を取り入れた管理職者への聞き取り調査から―』の知見をもとに、「先生を一人にさせない、園全体で子どもを育てる仕組み」をご紹介します。
元になった論文
- タイトル: “気になる子”に関わる保育士への支援 ―「事例検討型ケース会議」を取り入れた管理職者への聞き取り調査から―
- 著者: 矢崎 さやか(武庫川女子大学大学院 修士課程修了生)/ 安東 由則(武庫川女子大学教授)
- 調査概要: 「事例検討型ケース会議」を活用している公立保育所の園長・副園長ら管理職4名へインタビュー調査を行い、現場の先生たちをどう支えているかを質的分析手法(M-GTA)で構造化。
なぜ「気になる子」の保育は一人で抱え込みやすいの?
論文内でも触れられている全国の保育園への調査(2016年・2023年調査)から、現場のリアルな現状が見えてきます。
- 受入率は9割以上: ほとんどの園(92.7%)に「ちょっと手助けが必要な子」がいます。
- 人手(加配)がつきにくい: 障害の診断が出ている子にはサポートの先生が配置されやすいですが、「気になる子」には国の補助がつきにくく、人手が足りなくなりがちです。
- 担任にお任せになりやすい: 約8割の園で対応がクラス担任などに任されており、具体的なやり方のマニュアルも少ないのが現状です。
その結果、「自分が頑張らなければ」とクラスの中で悩みを抱え込み、先生が心の余裕をなくしてしまう悪循環が起きています。
解決のカギは「1人から、みんなで話し合う場」への変更
研究対象となった自治体でも、かつては「担任と園長先生の2人」で話し合って決め直すことが多くありました。しかし、これだと2人のアイデアや経験の範囲内でしか解決策が見つかりません。
そこで効果を発揮するのが、公認心理師などのアドバイスで導入された「たくさんの先生が集まって、みんなで知恵を出し合うケース会議」です。
| 従来の話し合い(2人だけで実施) | これからのケース会議(みんなで実施) |
| 悩みの状態 | 担任やサポートの先生が1人で抱え込みやすい |
| アイデア | 自分の経験だけが頼りになり、限界がくる |
| 園の雰囲気 | 「自分のクラスの部屋で解決する」となりがち |
園長先生たちがやっている「4つのステップ」
研究の分析結果から、園長先生たちが先生たちを支え、園をあたたかいチームに変えていくための「4つの流れ」が明らかになりました。
- 環境づくり: 園長先生が現場の人間関係や雰囲気を把握し、働きやすい環境を整える。
- 「みんなで育てる」空気づくり: 会議で支援アイデアを共有し、「チームで見る」意識をそろえる。
- 先生へのこまめなサポート: 担任の話をしっかり聞き、労い肯定しながら、具体的アドバイスを送る。
- やりがいを感じられる職場へ: 孤立感がなくなることで、先生自身がワクワクして保育を楽しめるようになる。
インタビューに応じた園長先生の声:
「『みんなで共有すればいいんだ、話し合って良い方向を探せばいいんだ』と思えると、1人で苦しまずに済みます。みんなで話し合うことは、クラス全体の保育の質を上げることにもつながると実感しています。」
これから取り組むときの「ちょっとした壁」
論文では、みんなで話し合うやり方の有効性を確認する一方で、実務上の課題についても言及されています。
- 時間のやりくり: 保育を回しながら、いかに短時間でサクッと話し合えるか。
- 話し合いの進め方: 経験の浅い先生もベテランも、みんなが意見を言いやすい「司会進行(ファシリテーション)」の工夫が必要。
- 外部プロとの連携: 園内だけで解決しない時は、心理の専門家などの力を借りる判断も大切。
おわりに:「正解のない問い」にチームで挑むということ
“気になる子”のサポートには、あらかじめ決められた「たった一つの正解」が存在しません。答えがないテーマだからこそ、最も多く接している担当の先生の意見や気づきを尊重したうえで、園全体・法人全体で知恵を出し合い、支援につなげていく体制づくりが欠かせません。
これは、園の中だけの話にとどまりません。ご家庭における子育てでもまったく同じことが言えます。
子育てにおいても、「母親が担任だから」と一人で重荷を背負い込むのではなく、父親も主体的に関わり、お互いを尊重し合いながら二人で話し合っていくこと。そして、必要に応じて地域の支援機関や専門家など、外部に相談できる体制を持っておくことが大切です。
「誰か一人に責任を背負わせない」「みんなで話し合い、多角的な視点で支える」。そんな温かいチーム体制を園でも家庭でも広げていくことが、子どもにとっても大人にとっても、安心できる環境づくりの第一歩となります。
