「親は子育てに無関心になった」わけではなかった ― 福岡・佐賀・大分の保育施設・約1,400家庭、10年ごとの調査から見えたこと

論文

この記事のまとめ

  • 福岡県立大学などの研究チームが、2006年・2016年に続き、約10年ぶりに3回目の調査を行った(福岡・佐賀・大分の19園、約1,400人の保護者が回答)
  • 前回調査では、親の生活が「早朝化」し、子どもの睡眠が短くなったことや、家族の中の「いってきます」「ただいま」が減ったことが見えていた
  • 親は子育てへの関心をむしろ高めているが、「関わりたくても時間がない」というジレンマを抱えている
  • 今回は、子育ての状況がさらに多様になり、保育施設の役割が大きくなっていることがわかった
  • コロナ禍をきっかけに園の行事を見直す動きが広がり、親が園で子どもと過ごす「保育参加」に取り組む園が増えている
  • 保育参加は、親と園の信頼関係づくりや、親自身の育ちにつながると考えられている
  • 詳しい分析は来年度も続く(この報告書は途中経過)

10年ごとに「同じ質問」を投げ続けるという調査

今回紹介するのは、福岡県立大学の菅原航平さんらの研究チームがまとめた報告書です。

この調査の面白いところは、2006年、2016年、そして今回と、10年ごとにほぼ同じ質問を保育施設の保護者に投げ続けていることです。一度きりのアンケートでは「今」の姿しかわかりません。同じ物差しで測り続けると、家庭と子育てがどう変わってきたかが見えてきます。

回答数は、2006年が1,059名、2016年が863名、今回は約1,400名(配布1,700通のうち1,424通を回収、回収率83.7%、数字は暫定)です。大分・佐賀・福岡の幼稚園、保育所、認定こども園の保護者が対象で、園の管理職への聞き取りも行われています。

前回(2016年)までにわかっていたこと

まず、前回の調査で見えていたことを整理します。

① 親の生活が早朝化し、子どもの睡眠は短くなった
親の働き方が厳しくなり、家庭の生活時間が全体的に前倒しになっていました。ところが、子どもの睡眠時間は伸びず、むしろ短くなっていました。早く寝られる家庭とそうでない家庭の差も開いていて、子どもの生活リズムは、親の生活状況に大きく左右されていたのです。

② 子どもの口から「あいさつ」が減った
特に減っていたのは、「いってきます」「いってらっしゃい」「ただいま」など、出かけるときや帰ったときの言葉です。背景にあるのは家族の小さな世帯化で、祖父との同居率は11.7%から8.6%へ、祖母との同居率は16.8%から12.4%へと下がっていました。毎日あいさつを交わす相手そのものが、家の中で減っていたということです。

③ 親は関心がないのではなく、関わる時間がない
「家庭で教えていること」は、ほぼすべての項目で10年前より増えていました。親が子育てに無関心になったわけではないのです。一方で、園に「教えてほしいこと」も増え、特に保育所では、トイレ、箸の持ち方、着替え、食事のマナー、好き嫌いをなくすこと、お手伝い、歯磨きといった生活面で、幼稚園より20ポイント以上高い項目が並びました。

論文はここから、親は子どもの育ちに強い関心を持っているのに、働く時間が長く、関わりたくても関われないジレンマの中にいる、と読み解いています。

今回の調査でわかってきたこと

園の先生たちの声から

今回は、18園の管理職への聞き取りも行われました。そこで多く語られたのは、コロナ禍が園と家庭の関係を変えたということです。

保育参観や行事が中止・縮小されたことで、親と園が顔を合わせる機会が減り、信頼関係づくりや子育て支援が難しくなった時期がありました。コロナ禍が落ち着いた今も、完全に以前の姿に戻ったわけではありません。ただ、これは悪いことばかりではなかったようです。先生と保護者双方の負担を考えて行事を見直し、廃止したり、小さくしたり、新しい形に変えたりする園が多くありました。そして、続けてみて「負担はあっても意味がある」と感じられた取り組みは、残されています。

その代表が保育参加です。「一日保育士体験」などと呼ばれる、親が子どもと一緒に園で過ごし、先生の関わり方から子育てのヒントを得たり、園の保育への理解を深めたりする活動です。これに力を入れる園が増えています。園側にも手間はかかりますが、保護者との信頼関係ができ、親自身も育っていく手応えがあるから続けているのだと、論文は分析しています。

保護者アンケートから

アンケートの結果では、10年前から続く流れとして、家庭の状況がますます多様になっていること、子育てにおける保育施設の役割が大きくなっていることが確認されました。また、多くの園が、子どもや保護者が主役になる保育・子育て支援へと舵を切りつつあることもうかがえました。

研究者たちの問題意識

論文の「背景」の部分には、研究者たちの危機感がにじんでいます。

この20年で、子育てを社会みんなで支える仕組みは整ってきました。しかしその一方で、「支援する側」と「支援される側」がはっきり分かれ、子育てが「サービス」として外に出されていく流れも進みました。その結果、親が学び合ったり、同じ立場の人とつながったりする機会は、むしろ減ってしまったのではないか。孤立感が深まり、周りの目を気にして「いい親」であろうとするあまり、完璧な子育てを目指して苦しくなる親も増えているのではないか、という問題提起です。

さらに、「子どもの育ちの問題は家庭の責任だ」と家庭教育の大切さを強調すればするほど、すでに限界までがんばっている親を追い詰め、「できない」という無力感を深めかねないとも警告しています。

もう一つ、見えにくくなっている問題もあります。サービスが充実したことで、外から見ると家庭ごとの違いや困りごとがわかりにくくなり、困難が表に出てこなくなっている可能性があるのです。今回、園へのヒアリングを加えたのは、全体の平均に埋もれてしまう「園ごと、家庭ごとの事情」を拾うためでした。

読んで考えたこと

保育園で運営や採用に携わり、今は学びの多様化学校の運営法人で働いている立場から読むと、この調査は「関わりたくても関われない親」の姿を数字で裏づけてくれていると感じます。二人の子の親としても、耳が痛いところがあります。

大事なのは、保育参加が広がっているという点だと思います。親に「もっとがんばれ」と言うのではなく、親が園の中に入って、先生の関わりを見て、一緒に悩める場をつくる。それが信頼関係を育て、親の学びにもなるのだとしたら、園だけでなく、学校や地域の居場所にとっても大きなヒントになるはずです。

今後について

この報告書は途中経過です。2006年・2016年との細かい比較や、幼稚園・保育所・認定こども園ごとの違いの分析は、令和8年度に引き続き行われる予定です。研究チームは、日本生活学習学会の研究大会などで、園へのインタビュー調査の結果を発表する予定とのことです。分析が進んだら、また紹介したいと思います。


出典:研究奨励交付金(若手奨励研究)報告書「幼児の日常生活と親のかかわりに関する10年間の変化に関する調査―第3次調査―」(菅原航平ほか)。数値は報告書時点の暫定値を含みます。

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