障害のある子を受け入れる保育現場で、いま何が起きているのか ― 保育者211人のアンケートから見えた「5年経っても変わらない課題」

働き方

この記事のまとめ

  • 障害のある子どもは増えているのに、生まれてくる子どもの数は減り続けている。保育の現場で障害のある子を受け入れる園は、全国で増えてきた
  • 調査では、保育所と認定こども園の約8割が障害児を受け入れていた。一方、小規模な保育事業所では受け入れも在園も少なかった
  • 保育者自身の悩みの上位は「知識不足」「対応の仕方・技術の不足」「障がいへの理解不足」。5年前の調査とほぼ同じ結果だった
  • 職場の悩みの1位は「職員が確保できない」。人手不足が、学ぶ時間の不足にもつながっている可能性がある
  • 研修が「受けただけ」になっていないか、保育者の配置基準は今のままでいいのかが、これからの大きな論点になりそうだ

障害のある子は増えている。園の受け入れも増えている

この記事は、関西学院短期大学の立花直樹さんが書いた論文「障害児保育における保育者および職場の課題」をもとに、読みやすくまとめたものです。保育園の運営と採用に携わり、いまは学びの多様化学校を運営する法人で働く、中1と小2の子を持つ父として、私なりの感想も添えながら紹介します。

まず背景です。2024年に生まれた子どもは約68万6千人で、出生率は1.15と過去最低でした。ところが、在宅で暮らす障害のある子は、どの種類でも増えています。たとえば知的障害のある子(18歳未満)は、2016年の約21万人から2022年には約28万人になりました。

保育の現場も変わりました。障害のある子を受け入れている保育所は、2014年度の約1万5千施設(約5万6千人)から、2023年度には約2万3千施設(約10万6千人)へ増えています。全国の保育所等の7割以上が、すでに障害のある子を受け入れている計算です。「インクルーシブ保育」、つまり障害の有無にかかわらず一緒に育ちあう保育は、少しずつ現実になってきたと言えます。

調べたのは、横浜ではない「B市」の保育者211人

調査が行われたのは2025年1〜2月。B市の保育団体が開いた障害児保育の研修に参加した保育者250人にアンケートを配り、211人から回答を得ました(回収率84.4%)。実は同じ著者が5年前にも同じB市で似た調査をしていて、今回はその結果との比較も大きなテーマです。

回答者の95%は女性で、経験年数は3年未満から20年以上までほぼまんべんなく分布していました。勤め先は、保育所が約半分、認定こども園が約3割、残りが小規模な認可保育事業所、企業が運営する保育事業所、無認可の保育園です。

受け入れているのは「大きな園」。小さな園は難しい

障害のある子を受け入れていると答えた割合は、認定こども園で82.6%、保育所で78.4%でした。小規模な認可保育事業所は36.4%にとどまっています。実際に障害のある子が在園している割合になると差はもっと開き、保育所で71.6%、認定こども園で65.2%に対し、認可保育事業所では9.1%でした。

看護師さんがいる園の割合にも似た傾向があります。認定こども園では8割を超えていましたが、認可保育事業所では2割に届きませんでした。医療的なケアが必要な子や、アレルギー対応が必要な子が増えるなかで、看護職の存在が今後の鍵になりそうだと論文は指摘しています。

もうひとつ気になるのが、企業が運営する保育事業所です。「受け入れ可能」と答えた割合は61.9%と高いのに、実際に障害のある子が在園している割合は28.6%。論文は、受け入れの意思があっても、保護者から選ばれていない現状がうかがえると述べています。「受け入れます」と掲げることと、「ここなら安心して預けられる」と感じてもらうことの間には、まだ距離があるのかもしれません。

保育者が感じている課題は「知識」と「技術」

一番知りたかったのはここです。保育者自身の課題として挙がったのは、次の4つでした。

  1. 知識不足(31.3%)
  2. 対応の仕方・技術の不足(21.3%)
  3. 障がい理解の不足(15.6%)
  4. 保護者へのアプローチ不足(14.2%)

上位3つだけで約68%。しかも、これは5年前の調査と「全く変わっていない」と論文は書いています。目の前の子どもをどう理解し、どう関わればいいのか。現場の先生たちは5年たっても同じところで悩んでいる、ということです。

一方で、5年前に挙がっていた「病院や療育施設との連携不足」は今回は上位に入りませんでした。いまは診断がなくても、発達検査の結果で支援が必要と判断されれば療育につながる自治体が増えています。担任の先生が専門職と顔を合わせて話す機会が増えたことが、背景にあると考えられています。

職場の課題の1位は「人が足りない」

職場全体の課題の上位は次のとおりです。

  1. 職員の確保(22.7%)
  2. 職員間の情報共有(18.5%)
  3. 保護者への対応(12.3%)
  4. インクルーシブな環境づくり(11.8%)

1位は人手の問題でした。保育者を目指す人が減るなか、障害のある子や配慮が必要な子は増え、個別に支える職員を確保するのがますます難しくなっています。

採用に関わってきた立場からすると、この数字は他人事ではありません。論文はさらに、人手不足が「学ぶ機会の不足」にもつながっている可能性を指摘しています。多くの園で研修が輪番制になり、最新の知識を学んでいるのは一部の先生だけ。園全体で共有しようにも、その時間も人もいない、という悪循環です。

「研修を受けた」だけで終わっていないか

私が一番考えさせられたのが、研修についての指摘です。2017年から、保育士のキャリアアップ研修が全国で始まり、障害児保育も15時間の科目として含まれています。ところが、この15時間をすべてオンラインで受けられるケースも多く、しかも知識を学ぶだけで、実際の支援の方法や保育実践といった技術の習得は義務になっていません。

論文は、処遇改善の加算を受けるために受講する人が増えただけで終わっているのではないか、と厳しく見ています。一方的に話を聞くだけでは、十分に身につきません。講義に加えて演習や情報交換を織り交ぜるなど、研修のやり方そのものを見直すべきだという提案です。

これは保育に限らず、どんな職場にも通じる話だと感じます。研修を受けたことと、現場で子どもと向き合うときに使えることは、別だからです。

数字の先にある「保育者の配置基準」の話

論文の最後で著者が強く訴えているのは、保育者の配置基準の見直しです。日本の基準は先進国で最低レベルだとして、このままでは保育者の燃え尽きや、人手不足による園の閉鎖が相次ぎ、インクルーシブ保育は「絵に描いた餅」になりかねないと警告しています。待遇の改善と配置基準の見直しで、人手不足を早急に解消する必要があるという主張です。

また、子どもの数が減って定員割れが都市部でも進むなか、多様な子を受け入れられることが、園が生き残る道にもなっていくだろうと予測しています。

読んでみて思ったこと

この調査にはいくつか限界があります。対象はB市の私立の園だけで、公立は含まれていません。また、課題が「子ども」「担任」「保護者」「制度」のどれに向けたものなのかまでは、細かく分けられていません。それでも、5年たっても変わらなかった悩みと、人手不足の深刻さは、現場の実感に近いのではないでしょうか。

親としても、子どもが通う園や学校の先生が「どう関わればいいかわからない」と悩み続けている状況は、決して遠い話ではありません。先生方が学べる余裕を持てることが、結局は子どもたちへの一番の支援になります。この論文を読んで、そう感じました。

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