この記事のまとめ
- 保育士82人に「保育士ってどんな存在?」を5つ書いてもらい、経験年数ごとに比べた研究を紹介します
- どの年代でも、書かれた内容の約4割は「子どもをどう受け止めるか」だった(保育士の軸は「子ども第一」)
- 新卒1〜2年目は、先輩から守られながら「目の前の子どもに必死」の時期
- 3〜4年目に「あえて先に動かず、見守る」ことができ始め、そこから子どもの様子が見えてくる
- 5〜6年目で「やること」と「気づくこと」がつながり、子どもを少し引いた目で見られるようになる
- 中堅からベテランは役割や専門性の意識が高まり、熟達すると専門性をことさら語らなくなる
- 新人の育成は「できない部分」より「その人の強み」に気づいて気長に支えることが大切、というのが研究の結論
「保育士って、どんな人?」と聞いてみた
私は以前、保育園の運営と採用を担当していました。採用面接で「どんな保育士になりたいですか」と聞くと、同じ言葉でも年数を重ねた人と新人とでは、重みがまるで違うと感じていました。今回読んだ研究は、その感覚を数字で見せてくれるものでした。
調べたのは、同じ法人の保育園3園で働く保育士82人と、保育士を目指す大学4年生25人です。「保育士という存在に、どんなイメージがありますか」を20〜30字くらいの短い文で5つ書いてもらい、全部で700件以上の言葉を経験年数別に並べています。
どの年代でも「子ども第一」は変わらない

まず驚いたのは、現役の保育士が書いた内容の約4割が、子どもの気持ちや様子を受け止めることだったことです。新人でもベテランでも、この割合は大きくは変わりません。
一方、大学4年生は同じ項目が約3割にとどまりました。学生の文章は、授業で学んだ保育の理念や目的、専門職としての姿をバランスよく並べたものでした。現場で毎日子どもの中に飛び込む人は、まず子どもを見る。仕事を始めたその日から「子ども第一」にならざるを得ないのが、保育士という仕事のようです。
1〜2年目:「何が分かっていないかが分からない」
新人の時期は、先輩の指示を聞き、先輩のまねをしながら、目の前の子どもへの対応に追われる毎日です。保育士という仕事は、いきなり子どもの生活の流れのど真ん中に放り込まれることだと、論文は表現しています。
面白いのは、この時期の人たちが書いたイメージが、後に中堅以降の人たちが上位に挙げる4つの言葉と重なっていたことです。「愛情・思いやり」「子どもと共に」「安心・信頼」「親に代わって」の4つで、まとめると「愛情を持って子どもと共にいて、親に代わって育み、安心と信頼を与える人」になります。
新人は自分の体験というより、守ってくれる先輩が持っているイメージをそのまま受け取って書いたのではないか、と著者は読み解きます。保育士としてのアイデンティティは、まず先輩に寄りかかるところから始まるということです。この時期によく出てくるのが「見守る」「寄り添う」でした。先輩から「すぐ動かず、まず見守って」と言われても、目の前に子どもがいると体が先に動いてしまう時期です。
3〜4年目:「見守る」が意図的な行動に変わる
3〜4年目になると、保育を自由にこなせるようになり、自信がついてきます。すると「ここは先に動かず、少し離れて見てみよう」と、自分で意識して見守れるようになります。
見守っていると、子どもたち同士の関係が見えてきます。この「やってみたら、気づけた」の積み重ねが、専門性の土台になります。論文では、実践(能動)と気づき(受動)が結びつくことを「統合」と呼んでいます。
この時期は「子どもと共に」と「子どもと遊ぶ」がセットで出てきます。まず自分から思い切り関わる力がつき、その中で気づきが育っていくのだと思います。保護者への関わりは、子どもへの関わりより少し遅れて自由になっていきます。
5〜6年目:子どもが「一人一人」見えてくる
5〜6年目は、全年代で子どもの受け止めの記述がいちばん多い時期です。子ども一人一人と、クラス全体の様子を同時に見られるようになり、仲間づくりや社会性への視点も出てきます。研究ではこのあたりを、ひとつの成長の区切りと位置づけています。
中堅からベテラン:役割が増え、専門性が深まる
7〜10年目の中堅になると、「役割」や「専門職」としての記述が増えます。園の中でリーダー的な立場になり、後輩を指導し、クラスや園の運営にも関わるからでしょう。
11〜20年目のベテランでは、再び子どもを受け止める記述が増えますが、中身が違うと著者は言います。中堅前期の「子どもが見えてきた喜び」ではなく、「子どものプロだからこそ、子どもを主役に、尊重したい」という意識です。専門性が高まるほど、子どもを一番に考える姿勢も強まる。この指摘が、私にはいちばん印象的でした。
熟達すると、専門性を語らなくなる
21年目以降になると、書く量が減り、内容も「保育そのものの目的や育て方」が中心になります。ベテラン期には「専門職としての役割」を語っていた人が、熟達期には「子どもの気持ちや表現をありのまま受け入れて、喜びを感じる人」といった、ずっとシンプルな言葉で書いていました。論文はこれを、専門性が豊かに身についた結果、ことさら前面に出さなくなる姿だと説明しています。
「気づける人」ほど苦しいことがある
新人の段階で、保育者としての自信が低い人のほうが、保育士のイメージを豊かに書いていた、という結果もありました。子どもの感性を育てたい、主体性を大切にしたいといった、成熟した言葉も並んでいます。
著者は、気づく力が豊かなのに、実践に踏み出せない状態ではないかと推測しています。気づく力がある人ほど「気づいてしまったのに動けない」苦しさを抱え、それが早期離職につながる危険もある、と見ています。新人のうちは、気づきと実践がまだバラバラで、人によってどちらかに偏っているのが普通です。
新人を育てるうえで大切なこと
論文の結びは、新人育成についてです。新人が最初の危機を乗り越えるのに必要なのは、仕事を続けること、そして自分の保育のどこかに「手応えや充実感」を持てることだと言います。そのために先輩に求められるのは、次のようなことです。
- 「子ども第一」という共通の思いのもとで連帯する
- 目先の成功・失敗にとらわれない
- その人ならではの強みや特性に気づき、気長に後押しする
そうしていれば、3〜4年目ごろに実践と気づきが結びついていく、というわけです。
読んで思ったこと
採用や育成に関わっていた身としては、「早く一人前に」と焦りがちな現場に、とても大切な視点だと感じました。新人が目の前のことで精いっぱいなのは、成長が遅いからではなく、保育士という仕事がそういう始まり方をするからなのです。
これは保育に限らず、どんな仕事でも、子育てでも、そして学校の現場でも通じる話だと思います。うちの子どもたちを見守る親としても、「先に動かず、まず見守る」はなかなか身につかない難しい技でした。
なお、この研究は同じ法人の保育園で働く82人のデータが中心で、著者自身も、あくまで一つのモデルケースだと断っています。すべての園にそのまま当てはまるとは限りませんが、保育士の成長を考える手がかりとして、とても読みごたえのある研究でした。
出典:柴田長生・大森弘子「専門職としての『保育士の成長プロセス』に関する研究―保育士イメージの経時変化と、気づきと実践の統合過程に着目して―」(こども教育学部研究紀要 第6集)
