ドイツの「両親手当」とは? 親の働き方に合わせて組み立てられる、育児期の所得保障

論文

この記事のまとめ

  • ドイツの「両親手当」は、子どもが生まれた後に働く時間を減らしたり休んだりして減った収入を、国が税金で補う制度
  • 会社員だけでなく、自営業、学生、専業主婦(夫)、無職の親も対象。条件は「自分で育てる」「子どもと同居」「週32時間以内の就労」など
  • 支給額は、出産前の手取り収入のおよそ65〜67%が目安。月300ユーロ(最低額)から1,800ユーロ(上限)の範囲で決まる
  • 「基礎型」と、期間を2倍にして月額を半分にする「プラス型」があり、時短勤務を続けるならプラス型のほうが総額で得になることも
  • 両親がそろって時短で働くと、さらに最大4か月の上乗せがある
  • 2026年7月に改革案が発表された。基礎型の期間が14か月から12か月に短縮され、父母それぞれ最低3か月の取得が必要になる。最低額と上限額は引き上げられる見込み
  • 利用は増えているが、父親の平均受給期間は3.8か月、母親は14.8か月と、育児の担い手の偏りは残っている

「休んだ分の収入を補う」という発想

子どもが生まれると、家計は二重に影響を受けます。仕事を休んだり減らしたりして収入が下がる一方、育児にはお金がかかります。

ドイツの両親手当は、この収入の落ち込みを国が埋める制度です。2007年に始まりました。保険料を積み立てて給付を受ける社会保険とは違い、税金を財源にした「家族のための給付」という位置づけです。

特徴は、対象の広さです。会社員のほか、公務員、自営業、学生、専業主婦(夫)、出産前に働いていなかった人も受け取れます。ひとり親や、別居していても育児を分担している親も対象です。

条件は4つで、次のとおりです。

  • 自分で子どもを育てている
  • 子どもと同じ世帯に住んでいる
  • 働いていない、または週32時間以内の就労である
  • ドイツに住んでいる

ただし高所得世帯には上限があり、2025年4月以降に生まれた子どもでは、両親の課税所得が合計17万5,000ユーロを超えると対象外になります。給与などから経費や保険料を引いた後の金額なので、額面の年収にすると約20万7,000ユーロに相当するそうです。

いくらもらえるのか

基本の考え方は、子どもが生まれる前の手取り収入と、生まれた後の手取り収入の差額に、約65〜67%をかけた額です。

論文の例で見てみましょう。出産前の手取りが月2,000ユーロの母親が、出産後に仕事をしない場合、差額の2,000ユーロに65%をかけて、月1,300ユーロになります。月500ユーロのパートで働けば、差額は1,500ユーロなので、手当は月975ユーロ。収入と合わせて月1,475ユーロです。働いても手当が減るだけで、手取り全体は増える設計になっています。

金額には下限と上限があります。

  • 最低額:月300ユーロ。出産前に収入がなかった人にも出る
  • 上限:月1,800ユーロ。収入が高い人ほど、実質的な補填率は下がる
  • 低所得の人:補填率が最大100%まで引き上げられ、生活への打撃を和らげる

手当そのものは非課税ですが、他の収入にかかる税率を決める際には手当も加えて計算されます。このため、手当をもらった年は税率が少し上がり、税金が増えることがあります。申告も必要になるので注意が必要です。

「基礎型」と「プラス型」、どちらを選ぶ?

両親手当には3つの形があります。

  1. 基礎型:子どもが生後12か月になるまで、両親合わせて最大12か月分。もう一方の親(多くは父親)が2か月以上育児で収入を減らせば2か月延び、最大14か月
  2. プラス型:基礎型1か月分を、半額×2か月に置き換える形
  3. パートナーシップボーナス:両親がそろって週24〜32時間の時短で働くと、プラス型をさらに2〜4か月上乗せ

プラス型で総額がどう変わるか、先ほどの例(出産前の手取り2,000ユーロ)で見てみます。

出産後の働き方基礎型(12か月)プラス型(24か月)
働かない1,300×12=15,600ユーロ650×24=15,600ユーロ
月500ユーロで働く975×12=11,700ユーロ650×24=15,600ユーロ
月1,200ユーロで働く520×12=6,240ユーロ520×24=12,480ユーロ

働かない場合は総額が同じで、もらう期間が長くなるだけです。時短で働き続ける場合は、プラス型のほうが総額で大きく上回ります。「育児と仕事を両立しながら、長く支えてもらう」ための仕組みだとわかります。

さらに、年の近い兄弟姉妹がいる家庭には10%の加算(兄弟ボーナス)があり、双子なら2人目から月300ユーロが上乗せされます。

他の給付との関係

失業手当や傷病手当など、収入の代わりになる給付をすでにもらっている場合は、その分が両親手当から差し引かれます。ただし、最低額の月300ユーロまでは必ず残ります。

生活保護にあたる給付(市民手当や社会扶助)を受けている場合も、出産前に収入があった人は、月300ユーロ分が「なかったもの」として扱われます。両親手当をもらっても、生活を支える給付が減らないということです。住宅手当や奨学金、保育料の計算でも、最低額は収入に数えられません。

最低限の部分だけは、他の制度とぶつからずに手元に残る設計になっています。

2026年に出た改革案

論文では、2026年7月に連邦家族省が発表した改革案も紹介されています。まだ省庁間の調整段階で、2027年11月以降に生まれる子どもから適用される予定です。

  • 基礎型の最大期間が14か月から12か月に短縮される
  • 12か月分をもらうには、母親・父親がそれぞれ最低3か月ずつ受け取る必要がある
  • 上限が月1,800ユーロから1,900ユーロに引き上げられる
  • 最低額が月300ユーロから330ユーロに引き上げられる(2007年の制度開始以来、約20年ぶり)

期間は短くなりますが、「父親も必ず育児期間をとる」ことを制度に組み込む方向だと読めます。

それでも残る「母親に偏る育児」

ドイツの2024年の統計では、受給者約167万人のうち36.7%がプラス型を利用しています。時短勤務をしながら育児をする選択肢は、広がってきたようです。

一方で、父親の受給割合は25.8%で、平均受給期間は父親が3.8か月、母親が14.8か月です。ここまで工夫を重ねた制度でも、育児の中心が母親に偏る現実はまだ大きく変わっていません。この課題は、筆者の次の論文で取り上げられるそうです。

読んでみて

制度の細かい数字よりも印象に残ったのは、「親が仕事を完全にやめるか、続けるか」の二択にしていないことです。短時間で働きながら育てる、夫婦で時期をずらしてとる、2人そろって時短にする。家庭ごとの組み合わせを、制度が後押ししています。

保育や教育の現場で、働きながら子育てをする保護者の方々と接してきた身としては、お金の面で選択肢が増えることが、親の気持ちの余裕にも直結すると感じます。日本の制度を考えるときにも、金額の大小だけでなく、「どんな働き方の組み合わせを許し、後押ししているか」という視点で見ると、新しい発見がありそうです。

参考:裵海善「ドイツの両親手当(Elterngeld)(Ⅰ):制度的枠組みと給付額算定のメカニズム」筑紫女学園大学 人間文化研究所年報 第37号(2026年)

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