まずはこの記事のポイント
- 日本の男性の育児休業取得率は40.5%まで上がったけれど、取得期間は2週間未満という人が半数以上で、まだまだ「短期集中型」が主流
- 育休をとった父親は「自信がついた」「子どもとの絆が深まった」と感じる一方で、「孤独だった」「職場に戻ってから居場所がない気がした」という声も少なくない
- 育休をためらう一番の理由は「お金」より「職場の空気」。上司や同僚の理解、前例の有無が取得率を大きく左右する
- 父親の育児は「あやす」「遊ぶ」は多いけれど、「食事の世話」「寝かしつけ」「病院受診」は少なめ。まだ“お手伝い”の域を出ていない家庭が多い
- スウェーデンやノルウェーのように「父親専用の育休枠」を法律で作っている国では、取得率が9割を超える。制度の設計次第で状況は大きく変わる
先日、敦賀市立看護大学から出ている「国内外における父親の育児休業に関する研究の現状と課題」という論文(矢島文葉さん、2025年)を読みました。2010年から2025年までに発表された、日本と海外の研究43本をまとめて分析したもので、読み応えのある内容だったので、今日はこれを私なりにかみ砕いて紹介したいと思います。
保育園の運営に携わっていた頃も、今の学びの多様化学校の運営に関わる中でも、「お父さんの育児参加」というテーマにはずっと関心がありました。制度としての育休はどんどん整ってきているのに、なぜ実際の関わり方はなかなか変わらないのか。この論文を読んで、その理由が少し見えてきた気がします。
育休を取る人は増えたけれど、期間はまだ短い
まず数字の話から。厚生労働省の調査によると、2024年度の男性の育児休業取得率は40.5%。前の年が30.1%だったので、かなりの伸びです。国が制度を整えてきた成果が出てきていると言えるでしょう。
ただし、ここには少し注意が必要です。取得率は上がっても、多くの人が数日から1か月未満の短期取得にとどまっているのです。半数以上が2週間未満というデータもあります。女性の取得率が86.6%であることを考えると、まだ大きな差が残っています。
なぜ期間の長さが大事なのか。それは、育休中にどれだけ子どもと向き合う時間を持てるかが、その後の育児への関わり方を左右するからです。論文で紹介されていた研究では、育休の取得期間が長いほど、その後も継続して育児に関わる度合いが高いという結果が出ていました。逆に言えば、短い育休は「体験」で終わってしまい、子育てのスキルや自信を身につける機会としては少し足りないのかもしれません。
育休を取った父親たちの本音
論文の中で印象的だったのが、育休を実際に取った父親たちの心の中の変化です。
良い面としては、「父親としての自覚が芽生えた」「育児のスキルが身についた」「子どもとの関係が深まった」といった声が多く報告されていました。ある看護師のお父さんは、育児を通して「自分の存在価値を見出した」と語っていたそうです。育休は単なる休暇ではなく、父親としての土台をつくる大切な時間になっているようです。
一方で、見過ごせないのがつらさの部分です。「不慣れな育児や家事にストレスを感じた」「同じ立場の友達がいなくて孤独だった」という声。さらに海外の研究では、育休から職場に復帰したときに「罪悪感」や「自分は家庭でも仕事でも中途半端だ」という感覚に苦しむ父親の姿が報告されていました。
これは、私たちが育休を「取れたらそれで一安心」と考えがちなことへの、ひとつの警鐘のように感じました。取得すること自体がゴールではなく、休業中の孤立をどう防ぐか、職場に戻ったあとどう支えるか。そこまでセットで考える必要があるのだと思います。
育休をためらわせているのは、お金より「空気」
「なぜ育休を取らないのか」という理由を見ていくと、いちばん多く挙げられていたのは経済的な不安でも、制度の複雑さでもなく、職場の雰囲気でした。
「上司や職場の理解が得られない」「前例がない」「自分が休むと職場に迷惑がかかる」「周囲の顔色をうかがってしまう」――こうした声が、日本の研究でも海外の研究でも繰り返し出てきます。海外では、長時間働くことこそが「理想の働き手」だとされる価値観があり、育休を取ることがその理想から外れる行動だと見なされてしまう、という指摘もありました。
逆に、育休を後押しする要因としてはっきりしていたのが、「配偶者からの後押し」「上司や同僚の理解」、そして「周りに育休を取った人がいること」です。特に、身近に育休を取った先輩や同僚がいると、「自分が最初じゃなくていい」という安心感が生まれ、心理的なハードルがぐっと下がるようです。制度を整えるだけでなく、「取るのが当たり前」という空気を職場につくっていくことの大切さを、改めて感じさせられました。
「あやす」父親と「寝かしつける」母親
もうひとつ気になったのが、父親が実際にどんな育児をしているかというデータです。
「あやす」「一緒に遊ぶ」「おむつを替える」「お風呂に入れる」といった関わりは、比較的多くの父親が日常的に行っている一方で、「食事の世話をする」「寝かしつける」「健診や病院に付き添う」といった、地道で責任の重い育児は、まだまだ少ないという結果でした。
これは、父親の育児が「楽しい部分」「触れ合いの部分」に偏っていて、母親が中心的に担う日常のケアを補助する立場にとどまりやすいことを示しています。平日は仕事で時間が取れず、休日にまとめて関わるというパターンが多いのも、日本の長時間労働の働き方が背景にありそうです。実際、6歳未満の子どもを持つ父親の1日あたりの育児・家事時間は、日本が1時間23分なのに対して、アメリカは3時間10分、スウェーデンは3時間21分というデータも紹介されていて、この差の大きさに驚きました。
海外に学ぶ、制度のつくり方
北欧の国々の話も興味深いものでした。スウェーデンやノルウェーでは、育休の中に「父親しか使えない枠」が設けられていて、父親がその枠を使わなければ給付そのものが消えてしまう仕組みになっています。この「使わないと損をする」制度設計のおかげで、これらの国では父親の育休取得率が9割を超えているそうです。
日本の育休は「取ってもいいし、取らなくてもいい」という選択制です。この選びやすさは良い面もありますが、結局は個人の勇気や職場の理解に頼らざるを得ない、という側面もあります。論文では、今後は「取得を勧める制度」から「取得を前提とする制度」への発想の転換が必要ではないか、と述べられていました。
読んでみて感じたこと
この論文を読み終えて感じたのは、育休の問題は「制度の話」だけでは終わらないということです。制度が整っても、職場の空気や、父親自身の「自分にできるだろうか」という不安、そして孤立を防ぐ周囲のサポートがそろって初めて、育休は本当の意味で機能するのだと思います。
保育や子育て支援の現場に長く関わってきた立場から見ても、「お父さんをどう巻き込むか」は昔からずっと課題であり続けています。育休を取ってもらうことがゴールではなく、その先、お父さんが日常的に、当たり前に育児の担い手になっていけるかどうか。そこまで見据えた支援のかたちを、私たち大人が地域や職場でつくっていく必要があるのだと、改めて考えさせられる一本でした。
参考文献:矢島文葉(2025)「国内外における父親の育児休業に関する研究の現状と課題についての文献検討」敦賀市立看護大学ジャーナル第11号
