保育園の看護師さんは「気になる子」をどう見ているのか ― 一本の研究から考えたこと

この記事のまとめ

  • 保育園で「発達が気になる子」がいるのは、全国の保育所の9割以上。名古屋市の調査では、保育士が対応に難しさを感じる子の割合が10年で約2倍(約12%から約25%)になっている
  • 一方で、保育園の看護師の配置率は2013年の28.5%から2024年には47.4%まで増えているが、「気になる子」への関わりで看護師が何をしているかは、これまであまり分かっていなかった
  • 今回紹介する研究は、保育園や認定こども園で働く看護師3名に話を聞き、その実態を整理したもの
  • 看護師は、記録を読み込み、子どもの輪に入って一緒に過ごし、他の子との違いに気づき、安全を守りながら、保育士と情報をそろえて動いていた
  • 看護師ならではの視点は「からだ」。食べ方、飲み込み、トイレの自立度、体の使い方から、子どもの育ちと安全を見ていた
  • ただし、看護師の関わりを園として振り返り、評価する場は十分にない可能性がある。役割をはっきりさせることが今後の課題

「気になる子」って、どんな子のこと?

保育の現場では、診断がついているわけではないけれど、落ち着かない、友だちとうまく遊べない、気持ちが不安定になりやすい、といった「ちょっと気になる」子どもたちのことを「気になる子」と呼ぶことがあります。

私は以前、保育園で運営や採用を担当していました。今は学びの多様化学校を運営する法人で働いていて、家では中1と小2の子を育てています。この言葉は、仕事でも子育てでも、いろいろな場面で耳にしてきました。

この「気になる子」は、増えています。ある調査では、保育所の9割以上に在籍しているとされ、名古屋市の調査では、保育士が対応に難しさを感じる子どもがクラスに占める割合が、約12%(2006年度)から約25%(2016年度)に増えたそうです。クラスの4人に1人。現場の先生たちが大変なのも、うなずけます。

保育園の看護師さんに注目した研究

この「気になる子」の支援では、保育士さんの話はよく語られます。でも、園にいる看護師さんが何を見て、どう関わっているのかは、実はあまり知られていません。

北海道科学大学の研究チームが、保育園や認定こども園で働く看護師3名に30分ほどのインタビューをして、その実態を整理しました(北海道科学大学研究紀要 第54号、2026年)。

看護師さんは、まず「知る」ことから始める

印象的だったのは、看護師さんたちがとても丁寧に情報を集めていることです。

まず、記録を読みます。生まれたときの様子、これまでの成長、健診の結果、家での暮らし、会議で話し合われた最近の様子。園の外も含めて、その子の歴史をたどるわけです。

でも、記録だけでは分からないことがあります。そこで、看護師さん自身が保育の中に入ります。一緒に遊び、関わる中で、「記録に書いていない感じ」をつかむ。去年と今年の様子を比べて、遊び方や友だち関係が変わったことに成長を感じる。0歳、1歳は発達の段階では「気になる」と言い切れないので、注意して見守る。そんなふうに、関わりを積み重ねながら、自分なりの「この年齢ならこのくらい」という物差しを育てていました。

もうひとつ、他の子との比較も大事にしていました。「周りの子とちょっと違う」という感覚、友だちと遊べない様子、けがの多さ、発表の場面でステージに上がれない様子など。比べること自体は慎重になりたいところですが、小さな変化に気づくきっかけにもなっていました。

「安全」と「楽しさ」の両方を守る

次に、環境づくりです。看護師さんは、過去の記録からどんな危険やトラブルが起きやすいかを事前に把握し、体の使い方を見て、発達と事故のリスクを判断します。

私がいいなと思ったのは、安全を守るだけで終わらないことです。「子どもを守りながらも、楽しく遊べるように関わる」。これが語られていました。安全第一でありつつ、遊びを止めない。保育の本質を、看護師さんも大切にしているんだなと感じました。

そして、不安定になったときの気持ちの紛らわせ方を記録で確認しておき、普段から信頼関係をつくって「安心できる大人」になる。危なくない細かいことは、手を出さずに見守る。子どもにとっての「安全基地」になるわけです。

看護師ならではの「からだ」の視点

保育士さんが主に「生活や育ち」の視点で見ているとすれば、看護師さんは、そこに「からだ」の視点を加えます。

たとえば、食事。「気になる子」は食べ物を詰め込みすぎることがあるので、食材を確認しながら見守る。飲み込む力がまだ未熟な子には、食事の介助をする。トイレも、おむつの有無、ひとりで行けるか、拭けるかまで細かく見ていました。

「落ち着きがない」「不器用」といった行動の背景には、発達の偏りだけでなく、健康状態や体の事情が隠れていることもあります。その見極めは簡単ではありません。保育士さんの視点と看護師さんの視点が重なることで、見落としが減り、支援の安全性が高まる。この研究はそう考えています。

「みんなで同じ関わり」が子どもを安心させる

もうひとつ大事だと思ったのは、関わり方をそろえることです。「繊細な子も多いので、混乱するきっかけにならないよう、関わりや発言を統一する」という語りがありました。大人によって対応がバラバラだと、子どもは戸惑います。

保護者との情報共有も、担任の保育士さんが窓口になり、得られた情報を看護師さんと共有して対応を考える、という形で行われていました。

見えてきた課題:「振り返りの場」がない

ここまで読むと、看護師さんが大きな役割を果たしているのが分かります。ただ、この研究は課題も指摘しています。

看護師さんは、対応が正しかったかを個人的に振り返ったり、保育士さんに相談したり、園を巡回する専門職にアドバイスをもらったり、研修で学んだりしていました。でも、園全体で行われている支援を、看護師さんが一緒に評価する場面についての語りは、出てこなかったのです。

つまり、看護師さんが現場で実践していることが、園の中で十分に共有され、評価される機会が確保されていない可能性があります。「会議で話し合いに参加する必要性を感じている」という声もありました。

背景には、保育園における看護師の役割が制度上あいまいなことがあるのでは、と研究では考えられています。法律上、看護師の配置基準は明確ではなく、保育士として数えられる場合もあります。園長先生を対象にした別の調査では、看護師に期待されているのは、けがや体調不良の対応、病児保育での健康観察などの「保健活動」が中心だったそうです。「気になる子」の支援での役割は、まだ十分に認識されていないのかもしれません。

この研究を読むときの注意点

公平のために書いておくと、この研究には限界があります。

  • 話を聞いたのは3名だけで、保育園での勤務は1年3か月から2年と、経験が浅い方たちだった
  • 「気になる子」は看護師さんの主観的な判断で、診断や統一された基準に基づいているわけではない
  • 特定の地域や施設の状況を反映している可能性がある

なので、「看護師さんはみんなこうしている」と言い切れるものではなく、「こういう実践がある」という手がかりとして受け取るのがよさそうです。

私が感じたこと

採用や運営の側にいた経験から言うと、保育園では「誰を、どんな役割で配置するか」が、そのまま子どもたちの毎日の過ごし方につながります。看護師さんが園にいること自体が、子どもの安全を支えています。でもその専門性が「保健担当」の枠に収まったままだと、せっかくの視点が十分に生かされません。

保育士さんの「生活と育ち」の目と、看護師さんの「からだ」の目。この2つがそろい、お互いの気づきを共有し、一緒に振り返る場があれば、「気になる子」だけでなく、すべての子どもにとって安心できる場所になっていくのではないでしょうか。

これは保育園だけの話ではなく、学校でも、私が今働いている学びの多様化学校のような場でも、同じだと思います。いろいろな専門性をもつ大人が、子どもを真ん中にして、見ている景色を持ち寄る。その土台づくりが、これからの大きなテーマだと感じました。


参考文献:山下千絵子ほか「保育所の看護師における発達の『気になる子』の支援の実態」北海道科学大学研究紀要 第54号(2026年)

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