この記事のまとめ
- 思春期(小4〜中3)の子どもを持つ保護者1,094名を対象に、「保護者の行動パターン尺度」という新しい尺度が開発された(松井・田口・藤井, 2026, 認知療法研究)
- 従来の養育態度尺度は「あなたは普段どんな親ですか」という漠然とした聞き方が多く、場面によって行動が変わる部分をうまく捉えられなかった
- この尺度は「片付けない」「うそをつく」など21の具体的な子育てストレス場面ごとに、「過干渉・統制」「受容・自立促進」「無責任・放任」の3パターンでどう行動するかを尋ねる
- 統計的な分析の結果、3つのパターンはしっかり分かれて測定できており、信頼性・妥当性も高いことが確認された
- 「過干渉・統制」と「無責任・放任」は一見正反対に見えて、実は同じ保護者の中で両方出やすい(相関が高い)ことも分かった
- 支援の現場では「あなたは過干渉ですね」ではなく「この場面ではこう反応しやすい」と具体的に伝えられるため、ペアレントトレーニングや相談支援に活かしやすい
保育園の運営に関わっていた頃から、そして今、学びの多様化学校の運営法人で働くようになってからも、変わらず感じていることがあります。それは「この保護者の子育てへの向き合い方は、いつも一貫しているわけではない」ということです。
面談の場でお話を伺っていると、「普段はできるだけ子どもの意見を尊重するようにしています」とおっしゃる方が、宿題やゲームの話になった途端に、まったく違う顔を見せることがあります。逆に、いつも穏やかに見える保護者が、子どもがうそをついた瞬間だけは強く叱ってしまう、ということも珍しくありません。人はそもそも、場面によって行動が変わる生き物なのだと思います。
ところが、これまで子育てや養育態度を測る質問紙の多くは、「あなたは普段、子どもの気持ちを受け止めるほうですか」といった、状況を限定しない聞き方をしてきました。これはこれで保護者全体の傾向をつかむには便利なのですが、「勉強のときだけは感情的になる」「片付けの場面だけ放っておいてしまう」といった、場面ごとのばらつきや矛盾までは拾いきれません。今回ご紹介する論文は、まさにこの「場面によって行動が変わる」という当たり前だけれど見過ごされがちな事実に、正面から向き合った研究です。
どんな尺度がつくられたのか
明星大学の松井美夏さん、田口遥さん、藤井靖さんによるこの研究は、小学4年生から中学3年生までの子どもを持つ保護者1,094名を対象に行われました。研究チームはまず、「片付けない」「宿題をやらない」「うそをついた」「反抗的な言葉を返してきた」など、多くの保護者がストレスを感じやすい具体的な場面を21個用意します。そのうえで、それぞれの場面について、保護者が実際にどう振る舞いやすいかを、次の3つのパターンの選択肢で尋ねる形にしました。
- 過干渉・統制パターン:心理的な距離が近く、口出しやコントロールが強くなる反応
- 受容・自立促進パターン:適度な距離感で、子どもの気持ちや自立を尊重する反応
- 無責任・放任パターン:心理的な距離が遠く、関わりを避けたり放っておいたりする反応
「普段のあなたに一番当てはまるものを選んでください」という一般的な聞き方ではなく、「片付けない場面では」「うそをついた場面では」と、場面をひとつずつ具体的に示したうえで答えてもらう点が、この尺度の大きな特徴です。
統計的にもしっかり裏付けられている
集めたデータをもとに、因子分析という統計手法で「本当にこの3パターンに分かれて測れているか」を丁寧に検証しています。最終的に89項目(過干渉・統制31項目、受容・自立促進38項目、無責任・放任20項目)が採用され、モデルの当てはまりの良さを示す指標もおおむね良好な水準でした。信頼性を示すCronbachのα係数も0.93〜0.95と非常に高く、測定の安定性という点では申し分ない結果です。
さらに、既存の「思春期の子育て態度尺度」との相関を見る収束的妥当性の検討や、ストレス反応尺度(SRS-18)との相関を見る併存的妥当性の検討でも、想定どおりの結果が得られています。過干渉・統制パターンや無責任・放任パターンが強い保護者ほど、抑うつ・不安や不機嫌・怒りといったストレス反応も高くなる一方、受容・自立促進パターンはストレス反応とほとんど関連が見られませんでした。
個人的に興味深かったのは、「過干渉・統制」と「無責任・放任」という、一見まったく逆に思える2つのパターンのあいだに、中程度の正の相関(ρ = .608)が見られたという結果です。論文では、思春期の子どもに対して従来のように統制的に関わろうとしてもうまくいかず、疲弊や諦めから関わりを避ける方向に傾いてしまう、という両極的な状態を反映しているのではないかと考察されています。これは、支援の現場で「厳しすぎる親」と「放任的な親」を別のタイプとして分けて考えがちな私たちにとって、示唆の多い指摘だと感じました。
支援の現場でどう活きるか
この尺度のもうひとつの魅力は、臨床的な使いやすさにあると思います。「あなたは過干渉なタイプです」という漠然としたフィードバックよりも、「宿題の場面では強く叱る反応が出やすいけれど、友人関係の相談では受け止められている」というように、場面ごとの具体的な情報が得られるからです。論文の中でも、この場面設定が「先行状況」を、行動パターンが「介入すべき標的行動」を示す手がかりとなり、機能分析やケースフォーミュレーションに直結すると位置づけられています。
学びの多様化学校で日々保護者の方々と接していると、「不登校」や「反抗的な態度」といった大きな括りではなく、「どの場面で、どんな行動が起きやすいのか」を具体的に把握することの大切さを痛感します。今回のような尺度は、保護者自身が自分の子育てのクセに気づくきっかけにもなりますし、支援者が「まずはこの場面のこの反応から変えてみましょう」と、実行可能な目標を一緒に設定するための土台にもなりそうです。
もちろん、著者らも述べているとおり、今回設定された21場面が、異なる地域や家庭環境の保護者にもそのまま当てはまるかどうかは今後の検討課題です。また、文献のレビューが国内の研究に限定されているため、海外の養育態度モデルとの対応関係についても、これから深めていく余地があります。それでも、「養育態度は一貫した特性ではなく、場面との相互作用の中で立ち現れるものだ」という視点そのものは、子育て支援に関わる私たちにとって、とても実践的なヒントを与えてくれる研究だと感じました。
参考文献 松井美夏・田口遥・藤井靖 (2026)「思春期の子どもを持つ保護者を対象とした『保護者の行動パターン尺度』の作成」認知療法研究, 19(2), 188–197.
