子どもの「なんでだろう」を育てる環境とは?幼児期の科学的な見方・考え方を読み解く

論文

この記事のまとめ

  • 幼児期の学びで大切なのは「何を覚えたか」より「どう関わったか」。身近なものに繰り返し働きかけ、試して、気づくことが学びの中心にある
  • 保育の「環境」の領域に出てくる「生活に取り入れる」という姿は、実は科学的な探究そのもの
  • 「数える」「比べる」「分ける」といった遊びの中の数量感覚が、ものごとのきまりに気づく土台になる
  • 保育者養成のテキスト17冊を調べると、遊びの例は豊富な一方、「この遊びで何を育てたいか」というねらいが書かれていないものが目立った
  • 大人が「ねらい」を持って環境を整え、声をかけることで、子どもの気づきが「わかった」に変わっていく

「見方・考え方」って、結局なに?

今回読んだのは、関西学院短期大学の森知子先生の論文です。幼児期の「科学的な見方・考え方」を、保育の「環境」という領域からどう育てるかを論じています。

「見方・考え方」は教育の世界でよく出てくる言葉です。かみくだくと、子どもが身の回りのものを「どんな目で見て」「どう考えているか」ということです。水たまりを見て「なんで水が消えるの?」と不思議に思い、触ってみたり、何度も試してみたりします。その一連の流れが、そのまま学びの質を表しているわけです。

論文では、この過程が科学者の探究とよく似ていると指摘しています。

  • 「不思議だな」と気づく
  • 「こうなるんじゃない?」と予想する
  • やってみて、うまくいかなくて、工夫する
  • 「そういうことか!」と納得する

小さな子どもは、遊びの中で毎日これを自然にやっています。

「生活に取り入れる」は、実はすごいこと

保育所や幼稚園の指針には、「周囲のいろいろな環境に好奇心や探究心をもって関わり、それを生活に取り入れていこうとする力を養う」という趣旨の目標があります。

正直、昔の私はこの一文を、ふわっとした理念くらいにしか読んでいませんでした。でも論文を読んで、見方が変わりました。「取り入れる」とは、子どもが同じものに何度も働きかけ、心を動かしながら性質をつかみ、「こうするとこうなる」というきまりを自分で見つけていくことだというのです。これは立派な科学的思考です。

つまり、砂場で水を流して何度も山を作り直している子は、遊んでいるように見えて、ものの性質を確かめているのです。

土台になるのは「数える・比べる・分ける」

論文が特に注目しているのが、数量の感覚です。

  • どっちが大きい? どっちが長い?(量)
  • いくつある?(数)
  • 同じ仲間はどれ?(形や分類)

こうした感覚は、算数の準備というだけでなく、ものごとの変化やきまりに気づくための道具にもなります。何かを調べるとき、人は自然に「数えて」「比べて」「分けて」いるからです。

テキスト17冊を調べてわかったこと

著者は、保育士や幼稚園教諭をめざす学生向けの教科書(領域「環境」のテキスト)を調べました。2008年以降に出版された17冊が対象です。

見えてきたのは次のようなことでした。

  • ほとんどのテキストに、数・量・形の感覚が育つ遊びや生活の例が載っている(すごろく、かるた、色水、落ち葉、砂場、片づけ、おやつの時間、身体測定など)
  • しかし、その活動の「ねらい」が書かれていない例がある
  • 具体的な指導案(どう進めるかの計画)まで示されているものは少なく、ねらいや計画が書かれていたのは17冊中2冊だった

遊びのネタは十分にあるのに、「それを通して何を育てたいのか」「どう関わればいいのか」が抜けがちだったということです。

「ねらい」があると、遊びが学びに変わる

論文には、ねらいが書かれた数少ない例として「数・長さ・大きさを比べる遊び」が紹介されています。そのねらいは、おおまかに次のとおりです。

  • 身の回りのものを集めたり分けたりして、数や量を感じ取る
  • 種類で分けるなかで、同じところと違うところに気づく
  • 数や長さ、大きさの基準を知り、比べる楽しさを味わう

注目したいのは、指導の留意点として、知識として教える前に、実感として感じ取る体験を大切にすると書かれていることです。「長さとは〜」と説明するのではなく、まず並べて、比べて、「こっちが長い!」と体で感じる。大人がすることは、遊具を形や色、大きさで分けやすいように整えたり、数を確かめる機会をさりげなく作ったりする環境づくりです。

論文はこうも指摘しています。子どもの体験は、放っておくと無意識のまま消えてしまう。そこに保育者の言葉かけが入ることで、「ああ、そういうことか」と心の中に残っていく。具体的な遊びの中には抽象的なものが潜んでいる、ということを大人が意識していなければならない、という趣旨です。

読んで考えたこと

保育園で採用や運営に関わっていた頃も、今、学びの多様化学校の運営法人にいる立場でも、現場の先生たちの「子どもを見る目」が環境の質を決めると感じます。

教材や遊具をそろえることはお金や工夫でできます。でも、それを子どもの前に置いたとき、「この子は今、何に気づこうとしているのか」を見られるかどうかは、大人の側の姿勢にかかっています。論文の最後にも、保育者自身が事象に興味をもち、探究を楽しむ姿勢が欠かせないと書かれていました。

これは、家庭で子育てをしている私たち親にも通じる話だと思います。

  • 子どもの「なんで?」を急いで答えで埋めない
  • 一緒に比べて、数えて、試してみる
  • うまくいかないときこそ、少し待つ

親が「今日はこの遊びで何を育てよう」と身構える必要はありません。ただ、子どもの小さな気づきを拾う目を持っておくだけで、いつもの遊びや片づけ、おやつの時間が学びの時間になるのだと思います。

読むときの注意点

最後に、この論文の限界にも触れておきます。

  • テキストの調査は2017年11月時点のものです。その後、改訂された本もあり、最新版の状況は今後の課題だと著者自身が述べています
  • 調べたのは保育者養成向けのテキストの内容であって、実際の保育現場や子どもの育ちを直接測ったものではありません

つまり「現場の保育がこうだ」という話ではなく、「先生を育てる教科書に、ねらいや進め方の整理がもっとあるといい」という提言として読むのがよさそうです。


参考文献
森知子「幼児期の『科学的な見方・考え方』を育む環境学習の在り方」関西学院短期大学紀要 第2号(2026)

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