この記事のまとめ
- 育児期の夫婦が感じる「公平・不公平」は、家事や育児の分担の量よりも、「どう感じているか」が大切だという考え方に立った研究です。
- 0〜3歳の第一子がいる夫婦1,000人(夫500人、妻500人)にネット調査をして、気持ちを測る60項目の質問票をつくりました。
- 気持ちは4つに分かれました。「関係葛藤感」「協働充足感」「自己劣等感」「尊重欠如感」です。
- 「不満」と「嬉しさ」は、シーソーのように一方が上がれば一方が下がるものではなく、同じ人の中に同時にあり得ます。
- 妻は「葛藤」「協働の嬉しさ」「尊重されない感じ」が高く、夫は「自分は親として劣っている気がする」という気持ちが高い傾向でした。
- 相手を威圧したり、無視したりする話し方は不公平感と、共感的な話し方は協働の嬉しさと結びついていました。
- 調査はネット上の1回きりで、育休中の人が多い集団です。結果は「傾向」として読むのがよさそうです。
「ちゃんと分けているのに、なぜモヤモヤするのか」
二人の子を育てていると、「家事は分担できているはずなのに、なんだか割り切れない」という場面がうちにもあります。保育園で長く働いていた頃も、保護者の方から似た話をよく聞きました。
今回読んだのは、そのモヤモヤを正面から扱った研究です。日本看護科学会誌に載った金澤悠喜さんと柴山大賀さんの論文で、育児・家事・仕事をめぐる夫婦の「公平さの感じ方」を測る質問票をつくり、信頼できるものかを確かめています。
出発点は「公平かどうかは、やった量を数えて決まるものではない」という考え方です。同じ分担でも、「頑張りが伝わっている」と感じる人もいれば、「自分ばかり」と感じる人もいます。夫婦関係に影響するのは、客観的な量よりこの感じ方だというのが、この研究の前提です。
もう一つ大事なのは、「公平だと感じる気持ち」と「不公平だと感じる気持ち」を、一本の線の両端とは考えていないことです。感謝して嬉しい日と、イライラする日が同じ一日に同居していても、何もおかしくありません。
どんな調査だったのか
調査の対象は、2か月〜3歳の第一子と暮らす夫婦の一方、1,000人です。夫500人、妻500人で、ネット調査会社を通じて集めています。
最初は70項目あった質問が、整理されて最終的に60項目になりました。質問票は、同じ人に約2週間あけてもう一度答えてもらい、答えが大きくぶれないかも確かめています。結果はおおむね安定していて、「ものさし」として使える水準だったそうです。
見えてきた「4つの気持ち」

回答を分析すると、気持ちは大きく4つのまとまりに分かれました。
① 関係葛藤感
いちばん項目が多いまとまりです。夜中の世話を自分ばかりやっている気がする、相手がぐっすり眠れているのが羨ましい、相手が楽をしているように見える、といった気持ちです。パートナーとのやりとりの中で生まれる、モヤモヤの中心部分です。
② 協働充足感
こちらは嬉しさの側です。「ありがとう」と言われた、一緒に家事や育児ができた、休めるよう気遣ってもらえた、二人の時間が持てた、というときの気持ちです。
③ 自己劣等感
「相手のほうが親としてうまくやれている気がする」「自分は親になりきれていない」と、パートナーと比べて自信が揺らぐ気持ちです。誰かに責められたわけでなくても、自分で自分を小さく感じてしまう状態です。
④ 尊重欠如感
自分のやり方や意見、休む時間が大切にされていないという感覚です。相手の機嫌が悪いと自分がなだめる側に回る、育児の意見を言っても相手の考えが優先される、といった場面で生まれます。
「関係葛藤感」と「尊重欠如感」はかなり連動していて、片方が高い人はもう片方も高くなりやすいことが示されています。「自分ばかり頑張っている」という気持ちと「大切にされていない」という気持ちは、ほぼセットで現れやすいようです。
妻と夫で、感じ方はこんなに違う
この論文でいちばん考えさせられたのは、男女差の部分です。
妻のほうが高かったのは、関係葛藤感、尊重欠如感、そして協働充足感でした。大変さや不満は強いのに、嬉しさも強い。パートナーとの関係に敏感に反応して、良いことも悪いことも大きく感じ取っているように見えます。
一方で、夫のほうが高かったのは自己劣等感でした。「妻のほうが育児も家事もうまい」「自分は親として追いついていない」という気持ちです。著者らは、育児への自信のなさや、妻との技術の差への劣等感が背景にあるのではないかと考察しています。
さらに、妻では「協働の嬉しさ」が高いほど「劣等感」が低い傾向があったのに対し、夫ではその関係は見られませんでした。妻の側は、一緒にやれている実感が持てると気持ちが軽くなる。夫の側は、一緒にやれているだけでは、劣等感は簡単に消えないのかもしれません。
父親の一人として、これは耳が痛い話でもあります。「手伝っているつもり」でいる夫のすぐ隣で、自信をなくして黙ってしまっている夫もいるのでしょう。そして「自信がない」ことが、かえって関わりを遠ざけてしまうこともあり得ます。
話し方が、公平さの感じ方を左右する
夫婦間のコミュニケーションとの関係も調べられています。
相手を威圧する、無視したり避けたりする。こうした態度が多い夫婦ほど、葛藤や劣等感、尊重されない感じが強い傾向がありました。反対に、共感する、素直に頼る・寄り添うといった態度が多い夫婦ほど、これらは低く、協働の嬉しさは高い傾向でした。
分担表をきれいに作るだけでなく、「どう頼むか」「どう受け止めるか」が、公平さの感覚に大きく関わっているということです。
現場でどう使えるのか
著者らは、この質問票を産後の家庭訪問や乳幼児健診、産後ケアで、助産師や保健師が使う場面を想定しています。不満は語られても、「どこがどうずれているのか」までは言葉にしにくいものです。夫婦それぞれに答えてもらえば、お互いの感じ方の違いが見えるようになり、話し合うきっかけになります。
家庭の外から子育てを支える立場の人にとっても、「大変そうですね」で終わらず、どの種類のしんどさなのかに合わせて声をかけられるのは心強いはずです。
読むときに気をつけたいこと
この研究にも限界があります。
- 調査はネット調査で、答えられる環境にある人に限られます。
- 子どもの平均年齢は1歳前後で、育休中の人が比較的多い集団でした。
- 学歴などの背景は十分に調べられていません。
- 質問が60項目と多く、答える負担が大きいため、短縮版が今後の課題とされています。
- 一時点の調査なので、子どもが大きくなるにつれて気持ちがどう変わるかは、まだわかっていません。
「夫は劣等感が高い」といった結果も、あくまで集団の平均的な傾向です。「うちはこう」と決めつけず、会話のきっかけとして使うのがちょうどいいと思います。
おわりに
読み終えて印象に残ったのは、「公平さ」は計算で出す答えではなく、日々のやりとりの中で育てていく感覚なのだということです。分担を決め直すのと同じくらい、感謝を言葉にすること、相手のやり方を頭ごなしに否定しないこと、疲れていることに気づいて声をかけることが大切だと、この研究は静かに教えてくれます。
忙しい毎日の中で、今夜パートナーに伝えられる「ありがとう」が一つあるとしたら、それが何かを考えてみる。そんな小さなところから始めてみてはいかがでしょうか。
参考文献
金澤悠喜、柴山大賀(2026)「育児期夫婦における育児・家事・仕事の役割言動の公平性認知尺度における信頼性と妥当性の検証」『日本看護科学会誌』46, 776–786.

