コロナ禍で子どもの運動能力は落ちた? 約7年分・のべ1万数千人のデータが示したこと

この記事のまとめ

  • 福島県郡山市の私立幼稚園で、2019年度から2025年度まで毎年、年中・年長の運動能力を測った研究です
  • 走る・跳ぶ・投げる・捕るなど6種目と、身長・体重を調べています
  • 「コロナ禍で運動能力が大きく落ちたはず」という予想に反し、顕著な低下は見られませんでした
  • 流行が落ち着いたあとも低下は見られず、むしろ維持・向上していました
  • 研究者は、背景に幼稚園での取り組みの充実があるのではないかと推測しています

「落ちているに違いない」という思い込み

2020年の春、街から子どもの声が消えました。公園は閉鎖され、保育園や幼稚園は行事を減らし、マスクをして過ごす毎日が始まりました。

私には中1と小2の子どもがいます。下の子は、まさにあの時期に園生活を送っていた世代です。外遊びが減り、家で過ごす時間が増えた様子を見て、「体力、落ちるだろうな」と正直に思っていました。保育園で運営や採用に関わっていた頃の感覚でも、子どもたちの体の発達は日々の遊びの量と切り離せません。同じように感じた方は多いと思います。

そんな中、日本体育・スポーツ・健康学会の大会(2026年9月、北翔大学)で、この「当たり前の予想」を問い直す研究が発表されました。長野康平さんらのグループによるもので、タイトルは「コロナ禍前後で幼児の運動能力はどう変化したのか」です。

どんな調べ方をしたのか

調査の舞台は、福島県郡山市の私立幼稚園です。年中と年長の子どもたちを対象に、毎年10月から12月にかけて運動能力を測っています。対象はコロナ前の2019年度から2025年度までの7年分で、毎年およそ1,300人から2,800人、とても大きな規模です。

測ったのは次の6種目です。

  • 25メートル走
  • 立ち幅とび
  • テニスボール投げ
  • 体を腕で支え続ける時間
  • 両足をそろえて連続で跳び越える動き
  • ボールを捕る動き

あわせて身長と体重も記録しています。こうした大規模なデータが、コロナ前から2023年5月のWHOによる緊急事態終了の宣言をまたいで、現在まで途切れずに集められていた点にまず価値があります。

結果は、性別と年齢(半年ごとの区分)に分けて、年度ごとに比べています。男の子と女の子、4歳後半と5歳前半といった違いを混ぜないための工夫です。

結果は「予想外」だった

項目や年齢によって多少の違いはあるものの、全体の傾向はこうでした。

  • コロナの流行中も、落ち着いたあとも、顕著な運動能力の低下は見られなかった
  • 流行以降、運動能力は維持され、むしろ向上していた

「コロナ世代の子は体力が落ちた」という話はよく耳にするので、意外に感じる方もいるでしょう。

なぜ落ちなかったのか

研究チームは、背景に幼稚園での取り組みの充実があったのではないかと考えています。具体的にどんな工夫が効いたのかは、今回の発表では示されていません。

ただ、現場の感覚としては、思い当たる節があります。制限の多い中でも、園は「できる範囲でどう体を動かすか」を必死に考えたはずです。園庭の使い方、少人数での活動、プログラムの見直し。保護者への発信が増えた園もあったと思います。ピンチが、遊びや運動を意識的に設計し直すきっかけになった面はあるかもしれません。もちろんこれは私の想像で、検証されたことではありません。

読むときに気をつけたいこと

安心しすぎるのも禁物です。この結果にはいくつか前提があります。

  • 調べたのは一つの地域の私立幼稚園で、全国の子どもに当てはまるとは限りません
  • 毎年違う子どもたちを比べたもので、同じ子を追いかけた研究ではありません
  • 今回は学会のポスター発表で、読めるのは要旨のみです。くわしい数値や条件は見えません
  • 測ったのは運動能力のテストで、遊びの量や心の面の影響まではわかりません

小学生以上の子どもでは、コロナ禍の影響について別の報告もあります。「幼児では落ちなかった」という今回の結果を、すべての年代に広げて読むことはできません。

大人の役割を考え直す

私は今、学びの多様化学校を運営する法人で働いています。学校に行きづらい子や、一人ひとり違うペースの子どもたちと向き合う中で、環境が変わったときに「子どもは大人が思うよりしなやかだ」と感じる場面もあれば、「大人の工夫次第で結果が変わる」と痛感する場面もあります。

今回の研究は、その両方を示しているように思います。

悲観的な予想が外れたこと自体は、素直に嬉しいニュースです。同時に、子どもの育ちは「環境のせい」だけで決まるのではなく、現場の大人たちが環境をどう工夫したかに支えられていた可能性が見えてきました。

次に何かの制約が来たとき、私たちは「仕方ない」と諦めるのではなく、「その中でできることは何か」を考えられるでしょうか。園や学校の先生方の踏ん張りを思い出しながら、家庭でも、公園へ向かう寄り道ひとつから大切にしていきたいと思います。

参考:長野康平ほか「コロナ禍前後で幼児の運動能力はどう変化したのか」日本体育・スポーツ・健康学会第76回大会 ポスター発表(07発-ポ-11)

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