「気になる子」を見つめ直す。チェックリストが教えてくれた、先生たちの視線の変化

論文

この記事のまとめ

  • 東京学芸大学附属幼稚園などの研究チームが、「気になる子どものチェックリスト」を幼稚園の現場で試した報告を読みました。
  • 対象は、実習中の大学院生2名と、幼稚園の担任の先生8名です。
  • 学生は、リストの項目に子どもを当てはめて見てしまいがちでした。一方で、書き込むほど子どもの全体像がつかみにくくなる面もありました。
  • 担任の先生は、チェックを続けるうちに「私が困っている」という視点から「この子が困っている」という視点へ変わっていきました。
  • 若手の先生は、子どもへの自分自身の関わり方を見直すきっかけにもなりました。
  • チェックリストだけでは足りず、先生同士や専門家との対話(カンファレンス)があって初めて意味を持つ、というのが研究の結論です。
  • 調査は小規模なので、あくまで「こういう変化が見られた」という報告として読むのがよさそうです。

「気になる子」は、誰にとっての「気になる」なのか

保育や教育の現場には、「ちょっと気になる子」がいます。じっとしていられない、急に怒り出す、集団に入りにくい。先生も親も、そんな姿を見て「どうしたらいいんだろう」と悩みます。

私は保育園で運営や採用に関わってきて、今は学びの多様化学校を運営する法人で働いています。2人の子の父でもあります。立場は違っても、「この子のことをもっと理解したい」という思いは、先生にも親にも共通していると感じます。

そんな中、東京学芸大学附属幼稚園の先生方と大学の研究者による、とても興味深い取り組みの報告を読みました。今回はそれを紹介します。

先生の「経験と勘」を、そっと言葉にする道具

幼い子どもの場合、気になる行動の理由は小学生以上よりずっと分かりにくいそうです。持って生まれた特性なのか、成長のペースの違いなのか、家庭などの環境によるものなのか。はっきりしないことが多いのです。

そこで研究チームは、ベテランの経験や勘だけに頼らず、客観的な道具を補助として使えないかと考えました。使ったのは、大学のセンターが作った「気になる子どものチェックリスト」です。本来は、専門家が園を訪ねて相談を受ける「巡回相談」のために作られたものですが、日々の保育で先生自身が使えば、子どもを理解する助けになるのではないか、という発想です。

試したのは2つの場面です。1つは、保育を学ぶ大学院生2名が実習中に15分ほどでリストを書き、最後に園の管理職と振り返る方法。もう1つは、幼稚園の担任の先生8名が月に1回、同じリストに色を変えながら書き重ね、保育後に特別支援教育の専門の先生と話し合う方法です。色分けは、変化が目で見て分かるようにする工夫です。

学生たちに起きたこと:「当てはめ」と「迷い」

担任経験のない学生さんたちは、どちらも子どもを温かい目で見ていたそうです。それでも、リストを使うと2つの傾向が見られました。

1つ目は、リストの項目に子どもを当てはめようとしてしまうことです。項目が短く端的な言葉で書かれているため、「この項目に当てはまる子は誰だろう」と探す目になってしまうのです。何度も同じ子に同じ項目をつけるうちに、「この子はこういう気質がある」と決めつける言葉も出てきたといいます。

ただ、話し合いの中で、学生さん自身が気づきました。リストで該当したからといって、それがその子の「気質」とは限らない、と。

2つ目は、その逆の現象です。リストは子どもの一部しか表せないので、「この場面では当てはまるけれど、あの場面では違う」と細かく書き足していくうちに、かえって子どもの捉え方が絞れなくなってしまうのです。子どもを多面的に見ることは大切ですが、チェックリストではあえて範囲を限って見ます。そのため「難しかった」という声も出ました。

おもしろいのは、どちらも人に指摘されたからではなく、自分が書いたリストを見返すことで自分で気づいたという点です。研究チームも、教員を育てる立場の人がこの傾向を知っておけば、学生指導に役立つだろうとまとめています。

先生たちに起きたこと:「困っている私」から「困っているあの子」へ

担任の先生たち(経験5年未満から20年以上まで)の変化は、読んでいて胸に響きました。

月に1回リストを書き、専門家と話す。これを重ねるうちに、先生たちの言葉が変わっていったのです。

最初のころは、「この子のこういうところが気になる」「どうしたらいいか悩んでいる」という言葉が多かったそうです。それが続けるうちに、「この子はここが辛いようだ」「こんな場面ではこう変わってきた」と、子ども自身の様子を語る言葉が増えていきました。

研究チームはこれを、「どうしたらいいか(対応策)」を探す思考から、「どう受け止めたらいいか」という思考への変化だと見ています。毎月同じリストに書き重ねたことで子どもの変化が見えるようになり、受け止める方向や、クラスの中でのその子の位置づけを、先生が自分なりに整理できたのだろう、とのことです。

若手の先生には、もう1つ大きな気づきがありました。気になる子の行動を振り返るうちに、自分の関わり方がその行動を引き出していることがあると気づいたのです。ほかの子にも同じ関わり方をしていて、それが気になる状況につながっていることもありました。

経験の浅い先生は、悩みが多すぎてどこから手をつけていいか分からなくなりがちです。「気になる子」に焦点を絞ったことが、自分の課題に向き合うきっかけになったのでしょう。

大事なのは、リストそのものではなく「対話」

この研究が一貫して伝えているのは、チェックリストは話し合いとセットで初めて意味を持つということです。

話し合いだけだと、頭の中が整理しにくく、経過も残りません。リストだけだと、当てはめや決めつけに傾く危険があります。リストが「考えを整理する手がかり」として形に残り、それを材料に人と話すことで、はじめて子どもの理解が深まる。そういう関係だと感じました。

もう1つ心に残ったのは、この取り組みが「気になる子」を特別扱いするためのものではない、という姿勢です。「気になる子」をきっかけに、どの子も尊重される保育につなげていきたい、と書かれています。

親として、職場の人間として思うこと

この研究は少人数の調査で、研究チーム自身も「一般化はできない」と書いています。また、チェックリストで子どもを判定する話でもありません。

それでも、私が読んでいちばん考えさせられたのは、「困っているのは誰か」という問いでした。大人が困っているとき、そこにはほぼ必ず、子どもも何かに困っています。大人の「困った」を出発点にしながら、子どもの「困った」へ視線を移していく。それは先生だけでなく、親にも、職場の私たちにも通じる姿勢だと思います。

そして、1人で抱え込まず、誰かと話しながら整理すること。うまくいかない日も、話せる相手がいるだけで、見え方が少し変わるのかもしれません。


参考
山田有希子ほか「『気になる子どものチェックリスト&マニュアル(改訂版)』を活用した『気になる子ども』の理解と教育実践」東京学芸大学附属学校研究会(2026年公開)

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