この記事のまとめ
- 保育者65名へのアンケート調査をもとにした研究を紹介します(仁愛大学の研究ノート、2026年)。
- 「ワーク・ライフ・バランス」という言葉を知っていた人は約74%でしたが、「バランスが取れている」と答えた人は約41%にとどまりました。
- 約74%の人が、希望よりも仕事に多くの時間や意識を取られていると答えました。
- 約75%が、自分の生活のバランスが仕事に影響すると感じていました。
- ただし、子どもへの関わり方の自己評価は、バランスが取れている人と取れていない人でほとんど差がありませんでした。
- 研究チームは、先生たちが専門職としての責任感で、保育の質を保とうと踏ん張っている可能性を指摘しています。
- 調査は3園・65名の小規模なものなので、「こういう傾向があるかもしれない」という参考情報として読むのが適切です。
「バランスが取れている」と言える先生は、4割ほど
私は中1と小2の子を持つ父親です。以前は保育園で運営と採用を担当し、今は学びの多様化学校を運営する法人で働いています。立場は変わりましたが、子どもに関わる仕事をする人たちの働き方には、ずっと関心を持ち続けています。
そんな私の目にとまったのが、保育者のワーク・ライフ・バランス(仕事と私生活の調和)を調べた研究です。福井県の仁愛大学の青井さんと武澤さんが、ある市内の保育園・認定こども園3園で働く先生たちにアンケートをした、というものです。
まず「ワーク・ライフ・バランス」という言葉を知っているかを聞くと、知っていると答えた先生は約74%でした。ところが「自分は調和が取れていると思うか」という質問では、「取れている」は約41%、「取れていない」は約59%で、取れていない人のほうが多い結果でした。言葉は知っていても、実感としてはなかなか難しいということだと思います。
「理想」と「現実」のずれはどこにあるのか
この調査のおもしろいところは、生活を「仕事」「家庭」「地域・個人(趣味や自分の時間)」の3つに分け、10マスの中で「理想の配分」と「実際の配分」を答えてもらった点です。
平均すると、こうなりました。
- 理想:仕事4、家庭4、地域・個人2
- 実際:仕事5、家庭3、地域・個人2
わずかな差に見えるかもしれませんが、人ごとに見ると、仕事が理想より多いと答えた先生は約74%にのぼります。理想どおりだった人は、17%ほどでした。
一方で、家庭や自分の時間についても、実際のほうが理想より多いと答えた人が5割ほどいました。ここは少し意外でした。この数字だけでは理由まではわかりませんが、仕事に追われる日々の中で、家庭や自分の時間のあり方に迷っている人も多いのかもしれません。
また、「理想」の段階で、仕事を優先したいと考える先生が一般の労働者より多かったのも印象的でした。研究では、保育が資格に基づく対人援助の専門職であることや、先生自身の子育て時期との関係が背景にあるのではないかと考えられています。仕事に誇りを持っているからこそ、仕事に力が入ってしまう面もあるのでしょう。
子育て中の先生は、とくに難しい?
子どもの有無や年齢で見ると、次のような傾向がありました。
- 子どもがいない先生は、「バランスが取れていない」と答えた人が多い(取れている6人に対し、取れていない20人)
- 0〜15歳の子どもがいる先生も、取れていない人が多い(9人に対し14人)
- 15歳以上の子どもがいる先生は、取れている人が多い(12人に対し4人)
子どもが手を離れた先生ほどバランスを取りやすい、ということです。わが家はまだ子どもたちに手がかかる時期なので、この傾向は他人事ではないと感じました。子育てをしながら、他人の子どもの育ちを預かる。保育者はその両方を担っているわけです。
先生たちが「仕事に影響する」と思う理由
自分の生活のバランスが仕事に影響すると答えた先生は、約75%でした。その理由の自由記述には、現場の空気がそのまま表れています。
- 時間が足りない:持ち帰りの仕事、残業、休みが取れない、土曜勤務で週6日働いている
- 心の余裕がなくなる:疲れやストレスが態度に出る、イライラしてしまう
- 私生活との行き来がつらい:家族との時間が取れない、仕事の疲れを家に持ち込んでしまう
- 経験が浅くて負担が大きい:1年目・2年目は悩みが多く、仕事中心になってしまう
採用の仕事をしていた頃を思い出すと、「保育が好きで入ったのに、余裕がなくて自分らしい保育ができない」という悩みは、決して珍しくありませんでした。この記述を読んで、改めて胸が痛みました。
逆に「影響はない」と答えた先生たちの理由は、「切り替えができる」「実家暮らしで負担が少ない」「勤務日数が少ない」「仕事が楽しい」などでした。「自分が我慢すれば仕事は回る」という声もあり、少し複雑な気持ちになりました。
それでも、子どもへの関わりは変わらなかった
この研究のいちばん大きな発見は、ここだと思います。
調査では、保育の基本的な関わり方を確かめる8つの質問を使い、先生たちに自己評価してもらいました。たとえば「温かい言葉で穏やかに話しかけているか」「子どもの気持ちをその都度受け止めているか」といった内容です。
その結果を、「バランスが取れている先生」と「取れていない先生」で比べると、ほとんど同じ傾向でした。「バランスが崩れると保育が荒れるのでは」と思う方もいるかもしれませんが、少なくとも先生たち自身の評価では、そうはなっていませんでした。
細かく見ると、両方のグループで共通していたことがあります。
- 「子どもの生理的な欲求に配慮する」「温かくスキンシップを心がける」といった項目は、多くの先生が「行っている」と回答
- 「早くしましょう」などのせかす言葉を使わない、「待ってて」「あとで」と言わずその場で対応する、の2項目は、どちらのグループでも「どちらとも言えない」が多め
忙しい現場では、せかしたくなる場面も、待たせてしまう場面もあります。これは誰にでもあることで、保育のむずかしさそのものだと思います。
少し違いが出たのは、「『だめ』『いけません』などの制止する言葉を不必要に使わないようにしているか」という質問です。バランスが取れている先生は「どちらともいえない」が最多で、取れていない先生は「行っている」が最多でした。研究では「やや違いがみられた」と書かれています。なぜそうなるのかはこの調査からはわかりません。自分に厳しく答えているのか、意識して気をつけているのか、いろいろな見方ができそうです。
私が感じたこと
研究者たちは、先生たちが自分の状態が仕事に影響すると自覚しながら、専門職としての責任感で、適切な保育を保とうと努めている可能性が高いと考察しています。
これは、先生たちへのエールにも聞こえます。同時に、私は少し心配にもなりました。子どもへの関わりが保たれているのは、先生ひとりひとりの踏ん張りに支えられているからかもしれないからです。踏ん張りは、いつまでも続けられるものではありません。「あの先生は頑張っているから大丈夫」ではなく、頑張らなくても大丈夫な仕組みが必要だと思います。
親の立場でも、「先生に余裕があるかどうか」は、子どもの毎日に関わる大切なことだと感じます。送迎のときに、「いつもありがとうございます」と一言添える。行事の準備や連絡帳への返事に、あまり求めすぎない。そんな小さな心がけでも、現場の空気は少しずつ変わっていくのではないでしょうか。
読むときの注意点
最後に、この研究の限界も書いておきます。
- 調査したのは1つの市の3園、回答は65名で、小規模です
- 子どもへの関わりは先生自身の自己評価なので、実際の保育の質そのものを測ったわけではありません
- 「差がなかった」ことは「影響がない」ことの証明ではありません
あくまで「こんな傾向が見られた」という研究ノートとして、受け止めるのがよさそうです。それでも、現場で働く人の本音を数字で見られる貴重な資料だと思います。
参考文献
青井夕貴・武澤彩里咲(2026)「保育者のワーク・ライフ・バランスと保育に対する自己評価の関連」『子ども教育学科論集』Vol.6, 27-32.

