「保育実習」でも「アルバイト」でもない第三の道 ― 京都府の有償・単位化インターンシップに見る、保育学生の自信の育ち方

論文

この記事のポイント

  • 京都文教大学が京都府・京都府保育協会と連携し、働きながら学ぶ「デュアル教育」の考え方を取り入れた有償の保育インターンシップを2025年度に試験実施した
  • 「保育実習」「園でのアルバイト」「保育インターンシップ」を比較すると、単位取得・収入・現場経験のすべてを兼ね備えるのがインターンシップの強みだが、スキル不十分な学生にも賃金を払う必要がある点が園側の負担になる
  • 参加学生と非参加学生を比較した調査では、「保育への自信」と「自己評価」の得点に有意な向上が見られた一方、「満足度」「結果の予期」には変化がなかった
  • 報告会での学生の発言をテキストマイニングした結果、「保育」「園」「経験」という3つのまとまりで学びが語られており、参加者だけでなく聞いていた非参加者にも実習への不安軽減などの波及効果があった
  • 保育士の有効求人倍率は全職種平均の倍以上と深刻な人手不足が続く中、こうした「安心して現場に入れる仕組み」は、採用・定着の入口を広げる一つのヒントになりそうだ

保育園の運営に携わっていた頃、いちばん頭を悩ませていたのは、実は保育の中身そのものよりも「人がどう入ってきて、どう辞めていくか」でした。求人を出しても応募が来ない。ようやく採用できても、現場に入ってみたら「思っていた仕事と違った」と早期に離職してしまう。そんな場面を何度も見てきました。

今の職場は学びの多様化学校の運営法人ですが、人材の確保と定着という悩みは業種を問わず共通しています。だからこそ、今回紹介する京都文教大学の研究報告「デュアル教育による保育への自信向上に関する一考察」は、他人事とは思えない内容でした。

「実習」でも「バイト」でもない、第三の選択肢

保育士を目指す学生が現場を経験する方法として、これまで主に二つの道がありました。ひとつは資格取得のために必修となっている「保育実習」。もうひとつは学生が個人で探して働く「園でのアルバイト」です。

実習は大学のカリキュラムに組み込まれているぶん、大学と園の両方から指導を受けられる安心感がありますが、無償であるうえに評価がつきまとうため、学生にとってはプレッシャーの大きい経験にもなります。一方のアルバイトは収入を得られ、現場経験も積めますが、学生が自力で職場を探すことになるため、園の実情を十分に把握しないまま働き始めてしまい、「合わなかった」と感じて短期間で辞めてしまうケースも起こりえます。

京都文教大学こども教育学科が2025年度に試験導入した「京都府保育インターンシップ」は、この二つの間を埋める第三の道として設計されています。文部科学省が示す「デュアル教育」、つまり学校での学びと現場での実習を密接に結びつけたカリキュラムの考え方を土台に、大学の正課授業(選択科目)として位置づけながら、実際に賃金も支払われる仕組みです。単位も収入も得られるうえ、大学からの事前学習や振り返りの支援を受けながら現場に入れるため、学生は「守られた状態」で保育の仕事に触れることができます。

園の側にとっても、実習ほど重い指導・評価の負担を負わずに、意欲のある学生と接点を持てるというメリットがあります。もちろん良いことずくめではなく、経験の浅い学生にも賃金を支払う必要がある点は、導入のハードルとして挙げられています。とはいえ、慢性的な人手不足に悩む現場にとって、「まずは大学の枠組みの中で安心して受け入れられる学生と出会える」という価値は小さくないはずです。

5日間のプログラムが積み上げていくもの

このインターンシップは最低5日間の参加が条件で、時給や交通費の支給、労災保険への加入、昼食の提供など、労働条件もきちんと整えられています。内容は段階を追って設計されているのが印象的でした。

初日は園の見学と遊びへの参加を通じて、園の雰囲気や保育者の役割を知ることから始まります。2〜3日目には遊びや食事、創作活動を体験しながら、子どもたちの自然な反応を観察する。4日目には子どもとの信頼関係を意識的に深めていき、そして最終日の5日目には、学生自身が遊び場を企画・準備し、子どもたちにとっての「特別な場」をつくり上げる。単に現場に「置かれる」のではなく、受容と共感の姿勢、そして困ったときは一人で抱え込まず保育者に相談するという心構えを事前学習で身につけたうえで、少しずつ子どもとの関わりを深めていく流れになっています。

2025年度は2年次生14名、4年次生4名の合計18名が参加し、夏休み期間を利用して実際の保育現場で活動しました。

「保育への自信」と「自己評価」は伸びた、しかし「満足度」は変わらなかった

この報告のもうひとつの見どころは、感想文だけで終わらせず、参加学生とインターンシップに参加しなかった学生とを比較する調査を行っている点です。実施前と実施後の2回、質問紙で「保育者効力感」に加えて「満足度」「保育への自信」「自己評価」「結果の予期」を尋ねています。

結果として、「保育者効力感」そのものには統計的に意味のある変化は見られませんでした。しかし「保育への自信」と「自己評価」については、参加した学生の得点が実施前後で有意に高まっており、参加しなかった学生には見られない変化でした。一方で「満足度」や「結果の予期」には、参加の有無による差は確認されませんでした。

この結果は、個人的にはとても納得感がありました。数日間の体験で保育者としての総合的な力量そのものが劇的に変わるわけではないけれど、「自分にもできそうだ」「この仕事に向いているかもしれない」という感覚――つまり自信や自己評価――は、実際に子どもと関わり、少しずつ役割を任されていく中で確かに育っていく。逆に「満足度」のような、もともとの期待値や価値観に左右されやすい指標は、数日の経験だけでは動きにくいというのも、現場感覚として腑に落ちるところです。

参加していない学生にも波及する「学びの共有」

もうひとつ興味深かったのは、報告会での学生の発言をテキストマイニングで分析した部分です。「保育」「園」「経験」という3つの語のまとまりが浮かび上がり、参加した学生は自分の体験を振り返りながら学びを言語化し、参加していなかった学生も、その発表を聞くことで「実習への不安が少し減った」「自分が実習に行くときに活かしたい」と語っていたといいます。

つまり、インターンシップという仕組みは、実際に参加した学生本人だけでなく、その体験を報告会という場で共有することによって、周囲の学生の学びにも波及していく効果を持っていたということです。園によって子どもとの関わり方や1日の流れが違うという「違い」への気づきも、複数の学生の報告を聞くことで立体的に見えてくる。これは、一つの園でしか実習を経験しない従来の仕組みでは得にくい視点だと思います。

現場を運営する立場として感じたこと

この研究の結論部分にもあるとおり、4年次生4名は全員が幼児教育・保育の現場に就職し、そのうち1名はインターンシップ先にそのまま就職しています。2年次生の1名も、インターンシップ先でアルバイトを継続しているとのことでした。まだ試験実施の1年目、サンプル数も限られた段階ではありますが、「現場を知ってから選ぶ」というプロセスを経た学生が実際に定着し始めている様子がうかがえます。

保育士の有効求人倍率が全職種平均の2倍以上という数字を見るまでもなく、保育の現場が人材確保に苦労していることは、運営に携わった経験のある身として痛いほど分かります。ただ、闇雲に採用数を増やそうとするのではなく、学生が「安心して現場に触れられる期間」を制度としてきちんと用意し、そこで得た自信や気づきを仲間内で共有できる場をつくる。この研究が示しているのは、そうした地道な仕組みづくりの積み重ねが、結果として離職を防ぎ、定着につながっていくという、決して派手ではないけれど確かな道筋だと感じます。

学校という現場の運営に関わる今の立場からも、「体験してから決める」「経験を語り合う場を持つ」という発想は、保育に限らず教育・福祉のあらゆる人材育成に応用できるヒントだと感じながら読みました。


参考:橋本祥夫・大森弘子・本山益子「デュアル教育による保育への自信向上に関する一考察―京都府保育インターンシップの実践報告および質問紙調査を通して―」京都文教大学こども教育学部研究紀要 第6集(2026年度)

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