「発達障害だと思っていたら、実は愛着の問題だった」——現場で混同されやすい二つの特性について

論文

この記事のまとめ

  • 発達障害(ASD・ADHD)と愛着の問題は、行動面でよく似た特徴を示すため、保育・教育の現場でしばしば混同されている
  • 発達障害は「認知・行動の障害」、愛着の問題は「感情発達の障害」であり、原因も支援の焦点も異なる
  • 愛着障害は虐待や施設養育など特別なケースだけに起こるものではなく、もっと身近で幅広く生じうる
  • 敏感期を過ぎても、愛着形成・愛着修復は年齢に関係なく可能とされている
  • 支援の鍵は「キーパーソン」となる大人との安心・安全な関係づくりであり、発達障害の特性に応じた対応と組み合わせることが大切
  • 診断名の有無にかかわらず、すべての子どもに愛着形成を意識した関わりをすることが、問題行動の予防や情緒の安定につながる

保育や教育の現場に長く関わっていると、「この子、発達障害かもしれない」という言葉を、実にさまざまな場面で耳にします。落ち着きがない、指示が通らない、感情の起伏が激しい——そうした行動が見られると、つい「発達障害」というラベルで理解しようとしてしまいがちです。

けれど、実はその行動の背景に、発達障害ではなく「愛着」の問題が隠れているケースが少なくない、ということをご存知でしょうか。今回は、仲森みどり氏による論文「愛着の視点からみる発達障害児への支援」を読み、現場にいる者として深く頷く部分が多かったので、内容をかみ砕きながらご紹介したいと思います。

なぜ混同されてしまうのか

発達障害と愛着障害は、そもそも生じる原因がまったく異なります。発達障害は生まれつきの脳機能の特性によるものであり、愛着障害は主に乳幼児期の養育環境や、養育者との関係性の中で生じるものです。

ところが、表に現れる行動——落ち着きのなさ、こだわりの強さ、感情のコントロールの難しさ、対人関係の築きにくさ——は、非常によく似ています。そのため、現場での見立てが難しく、本当は愛着の問題を抱えている子どもが発達障害として理解されてしまったり、逆に発達障害の子どもの行動が「愛着の問題」として片づけられてしまったりすることが起きているのです。

論文では、ある研究者の言葉として、学年が上がったり担任が変わったりすると子どもの様子が激変するケースや、保護者面談や家庭訪問の後に急に意欲的になる子どもの存在が紹介されていました。こうした変化は、純粋な発達特性だけでは説明がつきにくく、「本当に発達障害が増えたのか、それとも別の何かがあるのではないか」という問いから、愛着という視点にたどり着いたのだそうです。この視点、現場で子どもを見ている者としては非常に納得感があります。

「認知・行動の問題」と「感情の問題」という違い

両者を見分ける上でカギになるのが、「その行動が何の表れなのか」という視点です。

発達障害に起因する行動は、主に認知や行動の特性から来るものとして理解されます。一方、愛着の問題に起因する行動は、感情がうまく育っていないこと、あるいは情緒が不安定であることの表れだとされています。つまり、同じように見える「困った行動」でも、その根っこにあるものがまったく違うということです。

この違いを踏まえずに、行動だけを表面的に捉えて対応してしまうと、支援がうまく機能しないことが起こります。発達障害への対応(環境調整や認知面への働きかけなど)だけを続けても改善が見られない場合、実はその子は愛着の面でのケアを必要としているのかもしれません。

愛着障害をめぐる根強い誤解

論文の中で印象的だったのは、愛着障害に関する誤解がいかに現場に根強く残っているか、という指摘です。たとえば、「愛着障害は、施設で育った子どもや虐待を受けた子どもなど、特別な場合にしか起こらない」「母親が就労していたり、家庭が貧困だったりすると愛着障害になりやすい」「乳幼児期のうちに愛着形成できていないと、大きくなってからでは手遅れだ」といった考え方です。

これらは、支援を避けようとしているとしか思えないほどの偏見だと論文では述べられていますが、その背景には発達心理学や愛着理論についての不十分な理解があるとも指摘されています。実際には、愛着の問題はもっと幅広い要因によって生じうるものであり、また敏感期を過ぎたからといって修復が不可能というわけではないということが、複数の研究から示されているそうです。

このあたりは、保護者支援を考える上でも非常に重要な視点だと感じます。愛着の問題があると聞くと、保護者は「自分の育て方が悪かったのか」と自分を責めてしまいがちです。しかし論文が示すように、原因は一つに限らず、また今からでも関係性を築き直していくことができるのだと伝えることは、保護者にとっても、そして支援者にとっても、大きな救いになるのではないでしょうか。

支援のカギは「キーパーソン」

では、実際にどのような支援が有効なのでしょうか。論文で繰り返し登場するのが「キーパーソン(愛着対象者)」という考え方です。子どものことをよく知り、その子にとって安心・安全の基地となる特定の大人との関係を軸に、愛着を形成していくというアプローチです。

具体的には、こちらが主導権を握れるような「先手の支援や声かけ」を行ったり、子どもに何らかの「役割」を与えたりすることで、「褒める」機会を意識的に増やしていく。そうすることで、その大人と一緒にいるとポジティブな気持ちになれる、という関係を少しずつ築いていくのだそうです。

ASDやADHDの特性を併せ持つ子どもへの支援としては、こだわっている対象や感情を無理にやめさせるのではなく、いったん別のものに注意を「逸らす」「ずらす」支援や、望ましい行動の直後にすぐ評価や報酬を与える「即時強化」なども紹介されていました。特性に応じたアプローチと、愛着形成を意識した関わりを組み合わせていくことが大切なのだと感じます。

一方で、対人関係の悩みを聞く際によく使われる「傾聴」という手法が、愛着障害の支援ではかえって感情の混乱を招くことがあるという指摘もあり、これは正直、意外でした。よかれと思って行っている関わりが、必ずしも愛着の問題を抱える子どもには合わないこともある、ということを心に留めておきたいと思います。

おわりに

発達障害と愛着の問題は、まったく別のものというより、互いに影響し合いながら、時に併存しているものだと論文は結んでいます。診断名がつくかどうかにかかわらず、すべての子どもに対して愛着形成を促すような関わりを大切にしていくこと。それこそが、結果的に問題行動の予防や、子どもの情緒の安定につながっていくのだと感じました。

保育の現場から今の職場に移り、日々さまざまな背景を持つ子どもたちと関わる中で、「この子は発達の特性なのか、それとも安心できる関係が育っていないからなのか」という視点を持つことの大切さを、改めて考えさせられる論文でした。

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