保育者は「子どもの遊びの危なさ」をどう見ているのか ― ある認定こども園の研究から

論文

この記事のまとめ

  • 「子どもを守ること」と「いろいろな遊びを経験させること」は、これまで別々に語られがちだった。この研究は、その両方をつなぐ視点を探したもの
  • 研究では、ケガの原因になりうる「物や状態」と、実際にケガにつながる「可能性」を分けて考えている
  • 保育者は、高さや足場などの状態を見ながら、子どもとの距離や声かけでケガの起きやすさを下げていた
  • 子どもたち自身も、危ない状況で自分から安全な動きをとっていた
  • 積み木遊びの場面では、保育者が一瞬の判断で安全を整えつつ、子どもの「やりたい」を汲み取っていた
  • こうした保育者の判断は、その園が長い時間をかけて育ててきた文化に支えられていると考えられる

「ケガをさせないこと」と「遊ばせること」の板挟み

保育園で働いていた頃、そして親になった今も、ずっと頭のどこかにある問いがあります。

「ケガをさせたくない。でも、ケガを恐れて何もさせないのも違う気がする」

保育者にとって、子どもの命を守ることは何より大事な責任です。一方で、体を思い切り動かしたり、少しドキドキする遊びに挑戦したりする経験が、心と体の成長に欠かせないことも確かです。

ところが、これまでの研究では「事故をどう防ぐか」と「経験をどう保障するか」が別々に論じられることが多く、現場の保育を具体的に見ながら両方を考えた研究は、ほとんどなかったそうです。

今回紹介するのは、その間をつなごうとした大学院の論文です。「カエデこども園」という園で、保育者が子どもの遊びの「リスク」をどう捉えているのかを調べています。

「ハザード」と「リスク」は別物

この研究の出発点は、ふたつの言葉の整理です。

  • ハザード:ケガの原因になりうる物や状態。高さがある、足場がぐらつく、など
  • リスク:そのハザードによって、実際にケガが起きる可能性

たとえば高い遊具は、それ自体がハザードです。ただ、そこでケガが起きるかどうかは、子どもがどう動くか、まわりにどんな人がいるか、大人がどう関わるかで変わります。つまり、ハザードがあるからといって、すぐに「やめさせる」とは限らないということです。ケガが起きる可能性は、状況しだいで上げることも下げることもできます。

毎日の保育で見えてきたこと

研究者は園庭の大型遊具で遊ぶ子どもたちを観察し、保育者にも話を聞きました。見えてきたのは次のようなことです。

保育者は「禁止」より「調整」をしている。 高さなどの状態をしっかり把握したうえで、子ども同士の距離感に働きかけるなどして、ケガの起きやすさを下げていました。

園庭だからこその目配りがある。 屋外は、ぐらつきや傷みなどが出やすい場所です。保育者は遊具の状態を継続的に見て、必要なら修繕するという地道なことを続けていました。

子ども自身も安全をつくっている。 子どもたちが自分から、リスクを下げる行動をとる姿も観察されました。大人が一方的に守るだけでなく、子どもも自分の身を守る力を発揮しているのです。

積み木遊びの「一瞬」に見る保育者の判断

もうひとつの注目点は、大きな箱型の積み木で遊ぶ場面の分析です。映像を細かく区切って見ていくと、リスクは固定されたものではなく、物と人の動きが複雑に絡み合って刻々と変わっていくことがわかりました。

積み上げた積み木が崩れそうになる、子どもが近づく、別の子が走ってくる。そんな状況の中で、保育者は積み木の危ない状態を瞬時に見抜いて安全な状態に整えます。同時に、子どもが何をしたいのかをやりとりの中で確かめながら、遊びを止めずにリスクを調整していました。

「危ないからやめて」で終わらせず、「何がしたいの?」を受け止めながら安全を整える。現場の保育者がさらっとやっていることの中身は、実はとても高度なのだと改めて感じます。

保育者の判断力は「園の文化」が育てる

研究のまとめとして、保育者のリスクの捉え方は次の二つの積み重ねでできていると考察されています。

  1. その場その場での瞬時の判断
  2. 日々の保育での継続的な取り組み

そして、その背景には園全体での長期的な取り組みがあり、保育者の対応や価値観は、園固有の文化の中で長い時間をかけて培われているのではないか、と指摘されています。

読んで感じたこと

この研究が示しているのは、「安全か、経験か」という二択ではないということだと思います。

もうひとつ印象的だったのは、保育者の判断が個人の勘やセンスだけでなく、園の文化に支えられているという点です。採用や運営に関わってきた立場からすると、これは重く響きます。「リスクをどう捉えるか」を園の中でどれだけ話し合い、共有できているか。それが保育の質に直結するのだと思います。

親としても、子どもの遊びを見守るとき、つい「危ない!」と口が先に出ます。でも、まず状況を見て、子どもが何をしたいのかを考え、距離や関わり方で調整する。そんな選択肢があることを、この研究は教えてくれました。


参考文献
板東 愛理香「保育者は子どもの遊びにおけるリスクをどう捉えているのか―カエデこども園の事例から―」(大妻女子大学 学位論文の内容の要旨、2026年公開)
https://otsuma.repo.nii.ac.jp/records/2000753

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