この記事のまとめ
- 2025年に育児・介護休業法が改正され、国も「共育(トモイク)プロジェクト」で父親の育児参加を後押ししている
- 父親の育児ストレスは母親より低いとされる一方、乳児を育てる父親の約10%に抑うつ傾向があるという報告もある
- 負担感の根っこには、「厳しく導く父親」と「寄り添い世話をする父親」という、まったく違う2つの役割を同時に求められる葛藤がある
- 負担感は、自分の中の迷いや不安(内的要因)と、働き方や制度の壁(外的要因)の2つに分けて考えられる
- 男性の約8割以上が育休を取りたいと考えているが、実際には「お金」と「働き方」が壁になっている
- 父親学級などの支援は、平日昼間の開催が多く、父親の生活とすれ違いやすい
- これから必要なのは、父親自身の声に基づいた支援と、地域によって差のない仕組みづくり
はじめに
私は46歳、中学1年生と小学2年生の子どもを持つ父親です。以前は保育園で運営や採用を担当し、今は学びの多様化学校を運営する法人で働いています。仕事柄、たくさんの親御さんや子どもたちと接してきましたが、その中で気になっていたことがあります。それは、お母さんの悩みは語られる機会が多いのに、お父さんの悩みはあまり表に出てこないということです。
そんなとき、大学院生の方が書いた「現代の父親が抱える心理的負担感」についての文献研究を読みました。多くの研究を丁寧に整理した内容で、「そうだったのか」と膝を打つ場面が何度もあったので、ブログで紹介したいと思います。
国も「父親の育児参加」を後押ししている
まず、制度の話から始めます。2025年に育児・介護休業法が改正されました。子どもの看護休暇の見直しや、柔軟な働き方のための措置、仕事と育児の両立について会社が個別に意向を聞くことなどが盛り込まれています。同じ年の7月には、以前の「イクメンプロジェクト」を引き継ぐ形で「共育(トモイク)プロジェクト」も始まりました。
注目されているのは、「休みを取る」だけでなく「働き方そのものを柔軟にする」という考え方です。始業・終業時間をずらす、在宅で働く、短時間勤務にする、といった工夫のことです。これなら、子どもの送り迎えや学校行事への参加、そして親にとって特に大変な長期休みの時期も乗り切りやすくなります。
父親像は、時代とともに揺れ動いてきた
では、父親はどう変わってきたのでしょうか。論文では戦後の歴史が整理されています。
戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、「男は外で働き、女は家を守る」という役割分担が当たり前になりました。父親は猛烈に働く会社員として家族を支える存在でした。その結果、家にいない父親、家族の会話が足りない家庭という問題が生まれます。1970年代になると「それでいいのか」という反省が起こり、父親が育児を楽しもうという記事が育児雑誌に増えていきます。1980年代には、長時間労働のせいで父親が物理的に家にいないことが問題視されるようになりました。
つまり「父親も育児を」という流れは、ここ数年の話ではなく、50年近く議論され続けてきたテーマなのです。
興味深いのは、父親自身の自己評価と子どもから見た父親像のズレです。ある調査では、父親は自分を「優しい」「思いやりがある」と感じている一方、子どもは父親に「実行力がある」「リーダーシップがある」といったイメージを持っていました。しかも、父親に「リーダーであってほしい」という期待は、時代が変わってもあまり変わらないという結果でした。
父親に求められる役割は、増えている
昔から父親は「家族を経済的に支え、まとめ、導く役」、母親は「家族の気持ちを支える役」とされてきました。心理学の世界でも、父親は母と子の強い結びつきの間に入って、子どもが社会へ出ていく橋渡しをする存在だと考えられてきました。
一方、現代の研究では、父親が育児に関わることの良い面がいくつも挙げられています。子どもの成長が促されること、妻の心の健康につながること、父親自身の幸福感が高まること、家族の関係が良くなること、そして父親として成長できることです。実際に、子どもと関わるうちに自分の子ども時代を振り返ったり、仕事への責任感や時間の使い方が変わったりするという報告もあります。
育児に関わることは、子どものためだけでなく、父親自身にとっても大きな意味があるわけです。
それでも父親はしんどい。その理由
ここからが本題です。良いことばかりなのに、なぜ父親は負担を感じるのでしょうか。
①「正反対の役割」を同時に求められる
一番大きいのは、役割の矛盾だと私は感じました。論文では、現代の父親は「威厳のある父親」であることと、「子どもの世話をするケアラー」であることを同時に期待されていると指摘されています。厳しさと優しさ、導く人と寄り添う人。この両方をこなすのは、なかなか大変です。
さらに、「父親は稼ぐもの」という期待は今も強く残っています。ある調査では、父親の多くが「男性も家事や育児を分担すべき」と理解を示しながら、約8割が「3歳までは母親が育児に専念すべき」にも賛成していました。頭では新しい父親像を理解していても、心のどこかで古い父親像が顔を出す。この葛藤が、父親の負担感の大きな要因の一つだと考えられています。
② 父親のストレスは「不安」の形で現れやすい
母親の育児ストレスは「イライラ」や「怒り」として表れやすいのに対し、父親は「不安」「心配」「恐怖」といった感情が多いという調査結果があります。「こうあるべきだ」と強く思うほど不安も高まりやすく、「もっと育児をしたい」という気持ちに行動が追いつかないギャップに悩む父親も多いそうです。
一般には、父親の育児ストレスは母親より低いと言われます。でもそれは、悩みがないということではなく、表に出にくいだけかもしれません。乳児を育てる父親の約10%に抑うつ傾向が見られたという報告もあります。
③ 働き方という「壁」
もう一つは、自分の気持ちではどうにもならない外側の壁です。育児期の長時間労働や、「夫が稼ぎ、妻が育児を担う」ほうが経済的に合理的になってしまう労働環境があります。
育休についての国の調査では、男性の84.3%が「取りたい」と考えていました。ところが取得の壁として挙げられたのは、経済的な問題(56.7%)、配偶者の働き方(36.1%)、自分の働き方(35.9%)です。「取りたいけれど取れない」という現実が数字にも表れています。
支援はあるけれど、まだ届いていない
論文は、父親への支援の現状も整理しています。
自治体や病院が開く父親学級や、子育て支援センターの父親向けプログラムは、子どもとの関わり方や遊び方を学べる貴重な場です。参加した父親が子どもの新しい一面に気づき、子育てへの自信につながる効果も報告されています。
ただ、課題も残っています。多くの施設が平日のみの開所で、父親の仕事とすれ違ってしまうのです。自治体側にも、「父親のニーズがわからない」「業務が忙しい」「専門的な人材が足りない」といった事情があり、継続して取り組める体制が十分に整っていません。父親支援が、母親支援の延長として扱われがちなことも指摘されています。父親自身の心の面に焦点を当てた支援は、まだこれからなのです。
一方で、育児の不安や知識不足を解消する「父子手帳」を発行している自治体もあります。おむつ替えや沐浴、ミルクの作り方に加え、妊娠・出産期の母親の心身の状態まで書かれていて、新しい父親像への一歩を具体的に後押ししてくれる工夫です。
私が感じたこと
この論文を読んで、父親の悩みは「気合いが足りない」「やる気の問題」ではなく、時代の変化の中で期待される役割が一気に増えた、構造的な問題なのだと改めて感じました。
保育園でも今の職場でも、子育てをめぐる場の多くは、平日の昼間に動いています。父親が顔を出しにくいのは、関心がないからとは限りません。仕事を抜けられないという事情もあるはずです。保護者の皆さんが参加しやすい日時や形を考えることは、子どもに関わる現場の大切な役割だと思います。
もう一つ大切だと思うのは、父親自身が「しんどい」と言ってよいという空気をつくることです。論文が示すように、父親の不安は表に出にくいものです。だからこそ、父親同士や地域の中で気軽に話せる場が、これから必要になってくるのではないでしょうか。
おわりに
この論文は最後に、父親自身のニーズに沿った支援を継続的に検証していくこと、そして地域によって差が出ないよう、全国どこでも支援が受けられる体制をつくることが必要だと結んでいます。
父親の育児参加は、「父親を責める話」でも「父親を甘やかす話」でもなく、家族みんなが少しずつ楽になるための話だと私は思います。同じように悩んでいるお父さんが、この記事を読んで少しでも肩の力を抜けたなら嬉しいです。
【参考】佐伯太一「現代の父親が抱える心理的負担感に関する文献的考察」(大正大学臨床心理学専攻紀要 No.28)

