この記事のまとめ
- 昔に比べて、親が一人で子育てを抱え込みやすい社会になっている
- スマホは育児の味方にもなるが、使い方次第で親子のやり取りが途切れやすくなる
- 抱っこやスキンシップは、安心感だけでなく、言葉の理解や気持ちのコントロールにも関わるらしい
- ふれあいは「量」だけでなく「安心できる関係の中で行われる質」も大切
- 思春期に近づくほどふれあいは減っていくので、小さいうちから日常の中で積み重ねておきたい
※鹿児島国際大学の原口恵さんによる論文「子育て環境の変化と親子の身体接触の重要性―関わり時間の変化とその質に着目して―」(児童相談センター年報第40号、2026年6月)を、自分なりに読み解いてまとめました。
保育園で運営や採用に関わり、いまは学びの多様化学校を運営する法人で働いています。家では中1と小2の子を育てる父親でもあります。この仕事を長くやっていると、子どもの育ちは「どんな活動をしたか」より「どんな関わりの中で過ごしたか」に左右される場面が多いと感じます。
子育ては、昔より孤独になっている
まず前提として、子育てをめぐる環境はここ数十年で大きく変わりました。
2024年の出生数は約68万6千人で、70万人を割りました。核家族が当たり前になり、祖父母や近所の人に気軽に相談できる場面は減っています。同じ年頃の子を育てる親が身近に何人もいる、という状況も少なくなりました。
共働き世帯は1300万世帯にのぼり、専業主婦世帯(508万世帯)を大きく上回っています。ただ、父親の育児時間が増えた一方で、母親の育児時間は高い水準のまま変わっていません。働く母親が増えたのに負担は軽くなっていない、という現実があります。
そこに経済的な不安も重なります。論文では、親が慢性的にストレスを抱えやすい状況が整理されています。
つまり、親の努力不足ではなく、社会のつくりが親を孤立させやすくなっているということです。この点は、保育の現場で保護者と接してきた身としても、強くうなずけます。
スマホは敵ではない。ただ「途切れる」ことがある
孤立した親が頼るのは、やはりスマホです。育児の悩みを検索し、SNSに匿名で書き込み、同じ境遇の人の声に救われる。これは多くの親にとって大きな支えです。論文でも、育児中のスマホ利用には気持ちを楽にする面があることが紹介されています。
一方で、気になる研究もあります。
- 親がスマホに気を取られると、子どもへの反応が鈍くなり、親子のやり取りの質が下がりやすい(「テクノフェレンス」=技術による割り込み、と名付けられています)
- 1歳児とお母さんのやり取りの最中にスマホ入力などで関わりが中断されると、お母さんの応答が減り、子どもが注意を引こうとする行動が増えた
- 親のスクリーンタイムが長い家庭ほど、子どものスクリーンタイムも長い傾向があった
ただし論文は、スマホをやめようという話にはしていません。デジタル機器と無縁の暮らしはもう現実的ではないので、使いながらも、直接ふれあう時間を意識して確保しようというスタンスです。私もこの考え方に賛成です。
抱っこには、脳や体への働きまである
ここからが、この論文でいちばん面白かった部分です。
赤ちゃんとの肌の触れ合いや抱っこが、気持ちの安定や親との絆(愛着)づくりを助けることは、昔から言われてきました。この論文では、さらにいくつかの研究が紹介されています。
- 保育園児の研究では、抱っこの時間や、泣いているときに触れてもらった経験が、自分の気持ちをコントロールする力の育ちと関係していた
- 生後7か月の赤ちゃんに、遊びの中で新しい言葉を聞かせる実験では、体に触れながら聞いた言葉のほうが、あとで再び聞いたときに脳が強く反応した
- 触れ合いは「安心ホルモン」とも呼ばれるオキシトシンの分泌を促し、ストレス反応をやわらげる可能性がある。生後1年の間の親子の触れ方が、思春期前の子のストレスへの反応にも関係していた、という研究もある
言葉が分かるようになる前の赤ちゃんにとって、抱っこは「安心させる行為」であると同時に、「世界を理解する手がかり」にもなっているのかもしれません。
大人になってからの影響を調べた研究もあります。子どもの頃に親からの身体接触が少なかったと感じている人ほど、心の不安定さを抱えやすい傾向がある、といった報告が紹介されています。
特別なことをしなくていい
では何をすればいいのか。論文が強調しているのは、特別なケアではなく、日常の中の短いふれあいを繰り返すことです。授乳、おむつ替え、お風呂上がりのケア、読み聞かせ、ベビーマッサージ。どれも生活の流れの中で自然に起こる場面です。
もう一点、大切な指摘があります。身体接触は、ただ回数を増やせばいいものではありません。お互いが安心できる関係の中で行われてこそ意味があるので、量と同じくらい質が大事だといいます。嫌がる子を無理に抱きしめることが正解ではない、ということです。
「いつでも抱っこできる」時間は短い
論文の終盤で、私が一番ハッとしたのがここです。日本の調査では、親から子への身体接触は中学生の時期に急激に減ることが示されています。成長とともに、ふれあいを受け入れにくくなる時期が来るわけです。
中1の子を持つ親としては、これは身に覚えがあります。小さい頃は黙っていても寄ってきたのに、いつの間にか距離ができている。それは成長の証拠で、寂しいけれど健全なことでもあります。
だからこそ、ふれあいを自然に受け入れてくれる時期に、日常の中で積み重ねておくことに意味があるのだと思いました。小2の子が「抱っこして」とやって来る時間は、もう長くは続かないでしょう。
最後に
この論文は、親にもっと頑張れと言っているわけではありません。むしろ、親が孤立しやすい社会の中で、それでも確保しておきたい大事な時間は何かを整理してくれています。
忙しい毎日の中で、スマホを置いて1分だけ子どもを抱きしめる。それだけでも、子どもにとっては大切な時間になります。そして、親を孤立させない仕組みづくりは、私たち大人の社会全体の宿題でもあります。

