紹介する論文:溝脇風子・高橋雄介「小中学生における質問紙回答の潜在的類型化に基づく回答行動と学力到達度との関連」『パーソナリティ研究』第35巻第2号(2026)
この記事のまとめ
- 小4〜中3の約5万4千人が答えたアンケートで、「何を答えたか」ではなく「どう答えたか」に注目した研究を紹介します
- 見たのは4つのクセ:答えの平均的な高さ、両端(「とても当てはまる」「全く当てはまらない」)を選ぶ割合、答えのばらつき、無回答の多さ
- 組み合わせて分けると、子どもの答え方は7つのタイプに整理できた
- いちばん多い「ふつうに答えるタイプ」は全体の約3割で、学力テストの得点も高めだった
- 無回答が多いタイプは、特に国語の得点が低い傾向があり、小4に多かった
- 国語と算数・数学で逆の傾向が出るタイプもあり、答え方には考え方のクセも表れているかもしれない
- ただし、これは「関連」の話であって、原因や子どもの優劣を決める話ではない。アンケートを読み解くときの注意点として受け取るのがよさそう
「アンケートの結果」を、そのまま信じていいのか
子どもに関わる仕事をしていると、アンケートの結果を見る機会が本当に多くなります。保育園で運営や採用を担当していた頃も、今、学びの多様化学校を運営する法人で働いている今も、「数字」は大事な判断材料です。わが家にも中1と小2の子どもがいますが、学校から配られるアンケートに子どもたちがどんな顔で答えているのか、正直なところ、想像したことがあまりありませんでした。
今回読んだ論文は、そんな私の素朴な疑問に、ちょっと意外な角度から答えてくれるものでした。ざっくり言うと、「アンケートの答えの中身だけでなく、答え方そのものに、その子らしさが出ているのでは?」という研究です。
小中学生のアンケートには、そもそも難しさがある
論文によると、自己報告式のアンケートは研究でも現場でもよく使われる一方で、いくつか弱点があります。人はよく見せようとして答えてしまうことがありますし、特に小中学生は大人と発達段階が違うため、答えの一貫性が低かったり、似た質問を区別して答えるのが難しかったりするそうです。
そこで研究者たちが注目したのが、答えの「内容」ではなく「やり方」でした。たとえば反応時間(どれくらい考えてから答えたか)を測る方法もありますが、学校で紙のアンケートを何万人分も集めるような場面では現実的ではありません。そこで、回答用紙そのものから分かる次のようなクセに目が向けられました。
- 両端の選択肢ばかり選ぶ(極端な回答)
- 答えがどれくらいバラバラか(個人内のばらつき)
- 答えていない項目がどれくらいあるか(無回答)
これまでの研究では、極端な回答が多い人は曖昧さが苦手で白黒つけたがる傾向があること、答えのばらつきが誠実さと関係すること、無回答が多い人は不安を感じやすい傾向と関係することなどが報告されてきたそうです。
1つのクセだけで見ると、誤解してしまう
ここがこの論文のいちばん面白いところだと思います。1つのクセだけを取り出して見ると、解釈を間違えやすいというのです。
例えば「答えのばらつきが大きい」子がいたとします。その理由は、両端ばかり選んでいるからかもしれませんし、一つひとつの質問を丁寧に考えて、細かく答え分けているからかもしれません。見た目の数字は同じでも、頭の中で起きていることは全く違う可能性があります。
さらに、平均が高い方に偏っている子は、そもそも答えが上限に近いので、ばらつきが小さくなりやすい、といった数字上の「からくり」もあります。
そこで本研究では、4つのクセ(平均の高さ、両端を選ぶ割合、ばらつき、無回答の割合)を同時に見て、似た答え方をする子どもたちをグループに分ける、という方法をとりました。
5万人のデータから見えた「7つの答え方」

分析に使われたのは、ある都道府県の公立小中学校で行われた調査のデータで、小学4年生から中学3年生まで54,237人分。「自分の気持ちや考え」「生活の様子」「授業での経験」に関する77の質問(すべて4段階)の答え方を調べています。
分けた結果、答え方は次の7つのタイプにまとまりました。
- 最頻回答:もっとも多いタイプで、全体の約3割。特に目立つクセがない
- 中間回答:両端を選ぶことが少なく、真ん中寄りに答える
- 高分散回答:極端な選び方が多いわけではないのに、答えのばらつきが大きい
- 肯定的極端回答:両端を選ぶことが多く、「当てはまる」側に偏る
- 極端回答:両端を選ぶことが多く、平均は中くらい
- 否定的極端回答:両端を選ぶことが多く、「当てはまらない」側に偏る
- 欠損回答:無回答がとても多い
なお、このタイプ分けは「答え方のクセ」だけでなく、その子の気持ちや性格そのものも含んでいる、と論文は断っています。つまり、7つのタイプは「その子の性格の分類」ではなく、「その日、その調査で、こう答えた人たち」というくらいに受け止めるのがよさそうです。
学年が上がると、答え方も変わる
学年別に見ると、おもしろい変化がありました。
「最頻回答」タイプは、どの学年でもおおむね3割くらいでした。一方で、学年が上がるにつれて増えていったのが「中間回答」タイプです。成長とともに、「すごく当てはまる!」「全然違う!」と言い切るより、「まあ、どちらかというと…」と慎重に答える子が増えていく。これは、中1と小2の子どもを見ている父親としては、なんだか実感に合う気がしました。
また、無回答が多い「欠損回答」タイプは、小4と比べて小5以降は少なくなりました。論文では、小学4年生がこのタイプの中で占める割合が38.5%と大きかったことにも触れられています。質問を読んで理解し、集中力を保って最後まで答えるというのは、年少の子にとっては大きな負担なのかもしれません。
学力テストの点数との関係
次に、国語と算数・数学のテストの得点との関係です。ここは数字の読み方に少し注意が必要ですが、傾向だけ紹介します。
いちばん多い「最頻回答」タイプは、国語も算数・数学も、点数が高い子ほどこのタイプに入りやすい傾向がありました。両科目とも、はっきりした「目立つクセのなさ」と関連していたというのは、興味深い結果です。
「高分散回答」タイプでは、国語と算数・数学で逆の傾向が出ました。国語の得点が高い子ほど入りやすく、算数・数学の得点が高い子ほど入りにくかったのです。著者たちは、国語が得意な子は細かなニュアンスをくみ取って答え分けやすく、算数・数学が得意な子は白黒はっきり選ぶことが相対的に多いのではないか、という解釈の可能性を挙げています(あくまで可能性です)。
「欠損回答」タイプは、国語の得点が低い子ほど入りやすい傾向が強く、算数・数学でも同じ向きの関連がありました。質問文を読む力や、最後まで集中して取り組む力が関わっているのかもしれません。
「極端回答」タイプは、国語の得点とは関連がはっきり見られませんでした。
この研究から、私たちが受け取れること
「外れ値」を機械的に除くと、偏りが出るかもしれない
研究や集計の現場では、極端な答えをする人を「ノイズ」として最初に除外することがあります。しかし論文は、そうやって各クセごとに機械的に外していくと、残るのは「最頻回答」のような特定のタイプばかりになり、結果として対象が偏ってしまう可能性を指摘しています。
「変な答え」だと思って捨てていたものの中に、その子の考え方や状況が映っているかもしれない。これは、学校や園のアンケートを見るときにも、大切にしたい視点だと感じました。
学力が低い子、年少の子には、アンケートの使い方に配慮を
無回答が多いタイプは、学力テストの得点が低い傾向がありました。著者たちは、学力が低い子どもを対象にした調査では、自己報告のアンケートがそのまま使えるのかを慎重に考える必要がある、と述べています。小学校中学年のような年少の子にも、同じことが言えそうです。
私の関わる学びの多様化学校にも、文章を読むことや、じっくり座って回答することが得意ではない子どもたちがいます。そういう子の「声」を、紙のアンケートだけで拾おうとすると、取りこぼしが起きるかもしれない。そのことを、この論文は静かに思い出させてくれます。
読むときに気をつけたいこと
最後に、この研究を読むうえでの注意点も書いておきます。
- 原因ではなく「関連」の話です。 無回答が多いから学力が低い、あるいはその逆、と言えるわけではありません
- 子どもを7つに分類する話でもありません。 同じ子でも、体調や気分、アンケートの内容によって答え方は変わるはずです
- 学力テストの点数には、いろいろな要素が混ざっています。 知的な力だけでなく、誠実さや、テストへの取り組み方なども反映されていると著者たちは述べています
- 調査の設計上の限界もあります。 質問に「逆の聞き方」(わざと反対の意味にした質問)がなく、選択肢が4つ(真ん中がない偶数)だったため、不注意な回答や、完全な中間の回答を細かく見分けられていません
著者たち自身も、これらを今後の課題として挙げています。
おわりに
アンケートは、子どもの「声」を聞くための大切な道具です。けれど、その声がどんなふうに出てくるのかは、子どもによって、年齢によって、その日の状態によって、かなり違う。この論文を読んで、数字の向こう側にいる一人ひとりを想像しながらアンケートを見ることの大切さを、改めて考えさせられました。
保育園でも、学校でも、そして家庭でも、「聞き方」や「答えやすさ」にもう少し気を配ってみたい。そんなことを思った一本でした。


