「うちの保育室、実は自然がいっぱいだった」——見方を変えると、保育が変わる

論文

この記事のまとめ

  • 全国の保育者249名に、「バイオフィリックデザイン」(人は本能的に自然とつながりたい生き物だという考え方をもとに、空間に自然を取り入れる手法)を紹介する冊子を読んでもらい、前後のアンケートで変化を調べた研究です
  • 保育室の中で自然とのかかわりが大切だと答えた保育者は、読む前の時点で81.2%
  • 冊子を読んだあとは、光・空気・素材など多くの自然要素が「自分の園にもある」と答える保育者が増えた
  • 「自然と関わる活動」を新たに挙げた保育者は77.5%。どんぐり製作のような「作る」活動中心から、木のおもちゃ、影絵、自然の映像へと発想が広がった
  • 約83%が「興味がある」、約84%が「取り入れたい」と回答。経験年数や園の所在地による差はなかった
  • 「自分たちがやってきたことに意味があると気づけた」という声も。新しい道具を足すより、見方を足すことが保育を豊かにするという示唆

外遊びが難しい時代に、保育室でできること

保育の世界では昔から、自然とふれあう体験が大切にされてきました。ただ今は、都市部では自然に触れられる場所が減り、夏は酷暑で外遊びが制限される日も増えています。「自然体験を」と言っても、毎日の園庭や公園だけでは難しい。そこで、子どもが一日の大半を過ごす保育室の中でも、自然とのつながりを感じられる環境や活動をつくれないか、というのがこの研究の出発点です。

ここで登場するのが「バイオフィリックデザイン」です。人間には自然とつながりたい本能がある、という考えをもとに、暮らしや仕事の空間に自然の要素を取り入れていく手法で、オフィスや病院などで注目されてきました。研究チームはこれを保育室に当てはめてみたのです。

ポイントは、この考え方での「自然」が、植物や動物だけを指さないことです。光、空気、水、天気、木や石などの自然素材、さらには自然を思わせる映像や模様まで含みます。つまり、森や川に出かけなくても、保育室のなかに「自然」はたくさん潜んでいるかもしれない、という視点です。

調査の中身:読む前と読んだあとを比べる

2025年11月末から12月中旬にかけて、全国の保育者に郵送とオンラインでアンケートを実施しました。流れはシンプルです。

  1. 事前アンケートで、自然と関わる活動の現状などを答える
  2. A3見開きの情報冊子「自然とつながる保育室デザイン」を読む
  3. 事後アンケートで、自分の園の保育室にある自然要素や、今後の意欲などを答える

有効回答は249名。冊子を読む前から、約8割が「保育室内で自然と関わることは大切」と考えていました。意識の高い現場が多いことがわかります。

「あった」「やっていた」に気づく

冊子を読んだ後、光や空気、自然の素材など、8つの自然要素について「自園にある」と答える保育者が有意に増えました。もともと存在していたのに、「自然の要素」として意識されていなかったものが見えるようになった、ということです。

活動の捉え方の変化はもっとはっきりしています。

読む前、「自然と関わる活動」として多く挙がったのは、どんぐりでマラカスを作る、コマを作るといった、自然素材を使った制作でした。ところが読んだ後は、木のおもちゃや家具を使った遊び、動物のぬいぐるみで遊ぶこと、プロジェクターで自然の映像を映すこと、影絵やセロハンを使った光の遊びなど、これまで「自然との関わり」とは考えていなかったであろう活動が次々と挙がりました。

「自然と関わる活動」を新たに挙げた保育者は77.5%にのぼります。

さらに約83%が「BDに興味がある」、約84%が「保育に取り入れたい」と回答しました。しかも、都市か郊外か、園の形態、役職、経験年数といった違いと、興味や意欲の間に関係は見られませんでした。ベテランでも新人でも、都会でも郊外でも、同じように響いたということです。

読後の感想には、こんな声がありました(要約です)。

  • 保育を目に見える形にしたり、言葉にしたりするのに使いたい
  • 空気や光、天気を感じることは身近に取り入れられて、それに意味があると知れた

研究が示していること

この研究が面白いのは、「新しい活動を足しましょう」という話ではないところです。保育者たちは、すでにやっていることの中に「自然との関わり」を見つけ直しました。無意識にやっていた実践が、言葉と意味を与えられて「ねらいのある保育」になる。保育は目的や視点がないと、振り返りも共有も難しくなります。見方が変わることで、日々の活動の評価や、同僚との共有もしやすくなるだろうと研究者は考えています。

一方で、自然要素ごとに活動の数には偏りがあり、あまり活用されていない要素もあることがわかりました。そこは今後の伸びしろといえそうです。

保育の現場にいた父親として思うこと

私は元々保育園で運営や採用を担当していました。現場の先生たちは、本当に工夫の天才です。ただ、忙しさの中で「これは何のためにやっているのか」を言葉にする余裕がなかなかないのも事実でした。この研究の「実践の言語化や価値づけの一助になった」という結果は、現場を知る者としてとてもよくわかります。

窓から差し込む光、風の通り、木のぬくもり。特別な準備をしなくても、そこに子どもと自然をつなぐきっかけがある。そう思えるだけで、毎日の保育室の景色は少し変わって見えるはずです。

2人の子どもを育てる親としても、猛暑で外に出にくい夏が増えた今、「家の中でも自然とつながる」という発想は心強く感じます。

保育関係の方はもちろん、お子さんと過ごす時間の工夫を探している親御さんにも、「見方を変えるだけで、身近なものが自然との接点になる」という視点を、ぜひ持ち帰っていただけたらと思います。

出典:森元真理・松本信吾・斎藤真穂「バイオフィリックデザインの視点から保育室の自然要素と自然に関わる活動を捉え直す」日本デザイン学会第73回春季研究発表大会(デザイン学研究 2026)

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