入院中の中高生に「ただいま」と言える場所を― Teens Terraceに学ぶ、居場所づくりの視点

群馬大学付属病院ティーンズテラス 論文

群馬大学医学部附属病院の小児病棟に生まれた、思春期の入院患者のための専用スペースを紹介する論文を読みました。長年保育の現場で「子どもの居場所」を考えてきた身として、感じたことをまとめます。

この記事のまとめ

  • 群馬大学医学部附属病院の小児病棟に、12歳以上の入院患者専用のスペース「Teens Terrace(ティーンズ・テラス)」が開設された
  • 小児慢性特定疾病の医療受給者証を持つ子どもは20歳まで小児病棟に入院でき、実際に同院では入院患者の約半数を12歳以上が占めるという事情があった
  • 従来の小児病棟のプレイルームは幼い子ども向けで、思春期の患者に合った環境がなかったことが開設のきっかけ
  • 段状のテラス、大型スクリーン、学習コーナーを備えた多目的空間として、地元のインテリアデザイナーとともに設計された
  • 防音仕様を生かし、プロの演奏家による院内コンサートなど新しい取り組みも実現している
  • 2023年のクラウドファンディングと、その後の多くの支援によって実現したプロジェクトである
ティーンズテラスHPより
群馬大学医学部附属病院ティーンズテラスHPより

「小児病棟なのに、半分は中高生」という現実

子どもが入院する場所というと、多くの人は乳幼児や小学生くらいの姿を思い浮かべるのではないでしょうか。実は医療の世界で「小児」とされるのは15歳未満で、一般的には15歳を超えると小児病棟には入院しないのだそうです。ところが、小児慢性特定疾病の受給者証を持つ子どもは20歳まで小児病棟で治療を受けられる仕組みがあり、群馬大学医学部附属病院では悪性腫瘍や炎症性腸疾患、慢性腎炎などで長期入院する子どもが多いため、入院患者のおよそ半数を12歳以上の思春期世代が占めているといいます。この数字を知ったとき、私は保育園時代に感じていた「対象年齢の壁」を思い出しました。制度も設備も、いつの間にか「典型的な子ども像」を基準に作られてしまう。目の前にいる子どもの実態と、用意されている環境がずれてしまうのは、医療の現場でも保育の現場でも起こりうることなのだと感じます。

治療の場を離れて「年齢相応の時間」を過ごすということ

思春期は、体が大人に近づいていくと同時に、自分らしさを見つけ、物事を抽象的に考える力を育て、友人関係の中で自分の位置を確かめていく時期でもあります。もし長期入院がこの時期に重なれば、影響を受けるのは勉強の遅れだけではありません。「自分がどんな人間か」を形づくっていくプロセスそのものが、病室という限られた空間の中で立ち止まってしまう。もちろん入院中は治療が最優先ですが、ほんの一時でも「治療の場」から離れ、その年齢らしい時間を過ごせる物理的な場所があることには、発達の面で大きな意味があるという考え方に、私はとても共感しました。保育の仕事をしていたときも、子どもにとって「ここでは頑張らなくていい」と思える場所があるかどうかは、心の育ちに直結すると感じていたからです。

四床室を改装した、多目的な「たまり場」

Teens Terraceは、病棟内の四人部屋をまるごと改装して作られました。設計を手がけたのは前橋市内のインテリアデザイナーで、「くつろぐ」「学ぶ」「集う」という三つの機能を一つの空間に共存させることを目指したそうです。中心にあるのは段状に連なる三段のテラスで、地元・群馬の山並みである上毛三山がモチーフになっています。この段差はそのまま座面として使え、一人で静かに過ごしたい子も、友人や他の患者と一緒に集いたい子も、それぞれのやり方でその場に居られる作りになっています。窓側には大きなスクリーンがあり映画やゲームを楽しめ、反対側の壁には勉強のためのコーナーも設けられました。壁の色や照明も、いかにも「病棟」という雰囲気を抑え、落ち着ける空間になるよう工夫されているとのことです。こうした「一つの部屋に複数の過ごし方を用意する」という発想は、限られたスペースで多様な子どもを受け止めなければならない保育の現場にも通じるものがあると感じます。

ティーンズテラスHPより
群馬大学医学部附属病院ティーンズテラスHPより

「読んでほしい本」が並ぶ書棚と、二重扉の静けさ

この部屋の書棚には、小児科の医師たちに「思春期の患者に読んでほしい本」を尋ねて選んだ書籍や漫画が並べられています。医師が選んだだけあって、少し年季を感じさせるラインアップになったそうですが、それだけに名作ぞろいなのだとか。入り口には二重の扉が設けられ、しっかりとした防音対策も施されています。実際に開設されてからは、12歳以上の入院患者が日常的にこの部屋を利用し、映画を観たり、ゲームをしたり、本を読んだり、勉強をしたりと、それぞれのやり方で時間を過ごしているそうです。一人で静かに過ごす患者もいれば、何人かで集まって過ごす様子も見られ、「くつろぎの場」であり「集いの場」でもあるという、当初目指した役割をきちんと果たしているといいます。

防音の壁が、思いがけない「音楽の時間」を生んだ

個人的に印象深かったのは、この部屋の防音性能が思わぬ形で活かされたというエピソードです。もともと小児病棟では音量の制約から生演奏を開くことが難しかったそうですが、防音改修を経たTeens Terraceでは、廊下や他の病室への影響を抑えながら楽器の演奏ができるようになりました。地域のがん患者支援団体からの提案をきっかけに、昨年度は計9回、プロの演奏家が病棟を訪れて生演奏を届けたといいます。この演奏会には年齢の制限が設けられず、乳幼児から思春期の患者まで一緒に参加できたそうです。「治療のための空間」が「文化や楽しみに触れる空間」にもなる。設備を一つ整えることが、想定していなかった新しい取り組みにまでつながっていく様子に、施設づくりの面白さと可能性を感じました。

「入院中も生活の場である」という視点

この取り組みを紹介した記事の中で、長期入院を要する思春期の患者にとって病棟は生活の場でもあり、そこで過ごす時間の質が退院後の生活にもつながっている、という言葉がありました。私はこの視点こそが、子どもに関わるあらゆる場所に共通する大切な考え方だと思います。保育園も、学校も、そして病棟も、子どもにとってはただ「通過する場所」ではなく、その時々の生活そのものです。Teens Terraceは、2023年に行われたクラウドファンディングでの寄付と、その後の多くの人の協力によって実現したプロジェクトだそうですが、こうした形で「制度の隙間」に光を当て、実際の空間として形にしていく取り組みには、保育や教育に関わってきた者として、素直に励まされる思いがします。年齢や病状にかかわらず、子どもが「自分らしくいられる場所」を大人が用意していくこと。それは病院に限らず、私たちが日々関わる保育や子育ての現場でも、忘れずにいたい視点だと感じています。

参考文献:滝沢琢己「昭和キャンパス点描 Teens Terrace」(群馬大学医学部附属病院小児科, 2026年)をもとに、当ブログ運営者の視点でまとめました。

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