まずは今日のポイント
- 近畿圏のとある幼保連携型こども園(A園)では、2023年から作業療法士を中心とした専門職チームが月2回園を訪れ、保育の様子を観察しながら担任保育者と一緒に「気になる子」への理解を深める取り組み(アウトリーチ支援)を続けている
- この支援を受けている保育者と受けていない保育者を比較した調査では、「役割期待の理解」得点が全13項目すべてで支援を受けた保育者のほうが高く、特に「関係機関との連携」「家庭支援」「コーディネート」の3項目で統計的にも有意な差が出た
- 保育者の自由記述からは、経験年数や理解度によって専門職への向き合い方に違いがありつつも、支援を重ねるほど「専門職の視点のありがたさ」を実感していく様子が見えてきた
- ポイントは「保育を評価される」のではなく「子ども理解のために対等な立場で情報を共有する」という支援のスタンスにある
私が保育園の運営に携わっていた頃、外部の専門職が園に入るとなると、正直なところ身構えてしまう保育者は少なくありませんでした。「保育を見られる」「ダメ出しをされるのでは」という緊張感です。今回ご紹介する研究は、そうした構図をひっくり返すヒントを与えてくれるものでした。京都文教大学の大森弘子先生らによる、保育者に対する多職種連携アウトリーチ支援の効果を検証した論文です。
「気になる子」は、誰か一人では見きれない
厚生労働省の調査によれば、発達障がいと診断された人はすでに推計87万人にのぼり、保育所等が受け入れる障がいのある子どもの数もこの10年でおよそ2倍に増えています。診断が下りていない、いわゆる「グレーゾーン」の子どもも含めれば、現場感覚としてはもっと多いはずです。
そうした子どもたちの困りごとは、本人がうまく言葉にできないことも多く、月齢差や発達の偏りも一人ひとり違います。担任一人の目だけでは見きれない部分があるのは、現場を経験した身としてもよくわかります。主任に相談したり、同僚と話し合ったりしながら、園の中でなんとか対応している園がほとんどではないでしょうか。
専門家が「評価」ではなく「観察」のために来る
論文で紹介されているA園では、地域の多機能型児童発達支援事業所と連携し、作業療法士をチーフとする支援チーム(児童指導員・保育者などで構成)が月2回、午前中の保育に入ります。ここで面白いのは、支援チームの立ち位置です。
彼らは保育の合間に目立たないよう気を配りながら、あくまで観察を中心に子どもたちと関わります。そして保育終了後、担任保育者を交えたカンファレンスで、その日の気づきを共有していきます。これを単発ではなく、数年間にわたって継続してきたことがA園の特徴です。
著者らが実際にこのカンファレンスに同席した際には、専門職からの一方的な助言ではなく、担任保育者も対等な立場で自分の見立てを発言し、双方向のやり取りが自然に生まれていたそうです。「評価されるのではなく、子ども理解のために協力し合う」という空気があったからこそ、保育者側も安心して自分の考えを言葉にできたのだろうと感じます。
データにも表れた「役割期待の理解」の変化
論文では、支援を受けている保育者14名と受けていない保育者16名を対象に、「保護者と協働して発達を援助できるか」「関係機関と連携できるか」といった13項目からなる「役割期待の理解」を5段階で尋ねるアンケートを実施しています。
結果は、13項目すべてで支援を受けた保育者の平均点が上回り、全体としても統計的に意味のある差が確認されました。項目別に見ると、特に差が大きかったのは「関係機関との連携」「家族全体を視野に入れた家庭支援」「関係機関とのコーディネート」の3つです。日々の保育技術というより、園の外側とつながる力に効果が表れているのは、興味深いポイントだと思います。
専門職の視点に触れることで、保育者自身が「自分にもこういう役割が求められているんだ」と気づき、実際に動いてみる。そしてその経験が自信につながり、さらに役割への理解が深まっていく——そんな好循環が生まれているように読み取れます。
保育者の「本音」から見えてきたもの
論文の後半では、保育者たちに「作業療法士等……」で始まる文章を自由に書いてもらい、内容を分類する調査も行われています。
経験豊富なベテラン保育者は「専門職からの視点をもっと聞きたい」と積極的な姿勢を見せる一方、経験の浅い保育者の中には「関心はあるけれど自分には難しい分野」と感じつつも、専門職の助言を聞くと学びが多いと答えた人もいました。当初は作業療法士を「遠い存在」と感じていた保育者が、実際に巡回支援を通じて子どもの成長を目の当たりにし、専門性のありがたさを実感していく、という声もあったのが印象的です。
立場や経験年数によって専門職への距離感は違えど、実際に継続して関わる中で「価値がわかってくる」という流れは共通していました。
制度の後押しと、これからの課題
ちょうどこの分野では、2026年4月から作業療法士等の専門職を「みなし保育士」として保育所等に配置できる仕組みが始まっています。障がいのある子どもの受け入れが広がる中、保育者の負担軽減と保育の質の維持を両立させようという狙いです。
ただし論文でも指摘されている通り、専門職が担任保育者のように毎日現場に入り続けることには課題も残ります。むしろA園のように、外部の専門チームが定期的に「アウトリーチ」してくる形——著者らは「支援の場そのものを支援する、入れ子構造の支援」と表現していますが——のほうが、対等な関係性を保ちやすく、保育者の学びや自信につながりやすいのかもしれません。
さいごに
一保育者、一つの園だけで抱え込まず、外部の専門的な視点を定期的に取り入れる。しかもそれを「評価」ではなく「一緒に子どもを理解するための機会」として設計する。この論文が示しているのは、支援の「内容」だけでなく「関わり方」そのものの重要性だと感じます。
人手不足や多様化するニーズへの対応に追われる保育現場だからこそ、こうした継続的な多職種連携のあり方は、これからますます参考になっていくのではないでしょうか。
参考:大森弘子・柴田長生・三上明祥・松尾千俊「保育者に対する多職種連携アウトリーチ支援の効果―作業療法士等による支援に着目して―」こども教育学部研究紀要 第6集


