拠点を越えても、信頼は揺るがぬように―梅丘至誠保育園の指導監査から考える、保育の本質とわたしたちの選択―

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子どもを預ける場所を探すというのは、実に繊細な営みです。信頼できる場所に、安心して我が子を託したい――それは、すべての親の願いです。そして、保育士として働く方々にとっても、心から誇れる保育ができる場所を選ぶことは、自身の人生そのものを大切にすることに他なりません。

令和6年10月29日に実施された世田谷区の梅丘至誠保育園に対する指導監査では、「拠点区分間の資金移動において適正な処理を行っておらず、かつ前期末支払資金算高の充当処理に誤りがあった」という指摘がなされました。

この一文を読んで、よくわからないと感じる方も多いかもしれません。しかし、ここにこそ、保育の運営が持つ深い責任と、私たちが園を選ぶときの大切な視点が隠れています。

本稿では、今回の指摘内容をやさしくひもときながら、保育の原点をあらためて見つめ直してみたいと思います。

世田谷区 監査で改善点が見つかった施設の一覧

この記事でわかること

  • 「拠点区分間の資金移動」や「支払資金算高充当処理の誤り」とは何か、具体的にどんな問題があったのかを、やさしく解説します。
  • 保育園が守るべきお金のルールとは何か、そしてなぜそれが大切なのかを学べます。
  • 保護者が保育園を選ぶときに気をつけたいポイント、特に「運営の透明性」とは何かがわかります。
  • 保育士が転職活動の際に、どんな園を選ぶべきか、どんな視点が未来の安心につながるかが見えてきます。

一、小さな違和感にこそ、本質が宿る

子どもたちがのびのびと遊び、保育士が穏やかにその姿を見守る。そんな日々の風景の裏で、保育園は日々、膨大な量の運営事務をこなしています。人件費、教材費、施設維持費、食材費――すべてが緻密な計画と正確な処理のうえに成り立っています。

さて、今回の指摘にある「拠点区分間の資金移動」とは何でしょうか。

保育園を運営する法人の中には、複数の園を持つところが多くあります。たとえばA園とB園があったとします。本来、A園で使われるべきお金は、A園の口座にきちんと分けて管理され、必要なときにだけ使われるのがルールです。

ところが、たとえばB園の支払いが足りないからといって、A園のお金を一時的に使ったり、戻し忘れたりすれば、それは「拠点区分間の不適正な資金移動」となります。これは“お金を借りた”という単純な話ではなく、税金や補助金を使って運営されている施設においては、厳密に禁止されている行為です。

もうひとつの「支払資金算高の充当処理の誤り」というのは、年度末に残ったお金の処理に関するミスのことです。園がどれだけのお金を使い、何に支払ったかという記録がずれると、行政は補助金を正しく配分できません。つまりこの処理の誤りは、地域全体の保育制度に影響を与える可能性もあるのです。

二、なぜ、そんなことが起きるのか

多くの保育園では、限られた人員で運営をしています。特に、事務処理を担当する職員が一人か二人しかいないというケースは珍しくありません。そこに人手不足や急な欠勤、制度変更などが重なると、どうしてもミスが生まれやすくなります。

また、複数園を運営する法人では、園ごとの経理処理が一元化されていないことも問題を複雑にします。忙しさにかまけて「とりあえず今だけ…」と他の園の資金を流用してしまえば、それは重大なルール違反になります。

こうした背景には「現場を回すことが最優先」という、どこか切羽詰まった運営の姿勢が見え隠れしています。ですが、だからこそ、こうした問題が起きたときには一度立ち止まり、「なぜそうなったのか」「どこから立て直すべきか」を丁寧に考え直す必要があるのです。

三、本来あるべき保育園の姿とは

保育園は、単なる預かりの場ではありません。子どもがはじめて社会と出会う場所であり、親が安心して働くための拠点であり、保育士が誇りを持って仕事をするための居場所でもあります。

そのためには、園そのものが「透明」であることが大切です。これは、お金の流れも、人の動きも、園の方針も、保護者や地域社会に対してオープンであるということです。

もし、お金の扱いに不透明さがあれば、次第に保育の質にも影響が出てきます。良い職員を雇えなくなり、教材や設備が古くなり、ひいては子どもたちの育ちの環境にも影がさしてしまうでしょう。

つまり、「経理の問題」はけっしてお金の話だけではないのです。

四、保護者の皆さんへ――保育園を選ぶときの視点

では、保護者として保育園を選ぶときに、どんなことを大切にすればよいのでしょうか。

ひとつ、見学を大切にしてください。園の中を見たとき、子どもたちが自然体で過ごしているか、職員が笑顔で挨拶してくれるか。その雰囲気は、園全体の“文化”を映し出しています。

ふたつ、説明会などで園の運営方針について質問をしてみてください。「お金の使い道はどう決めていますか?」「補助金の活用方針について聞かせてください」など、遠慮せずに聞いていいのです。誠実な園なら、丁寧に答えてくれるはずです。

みっつ、第三者評価や監査結果の内容もチェックしてみましょう。世田谷区では、監査結果がホームページなどで公表されています。それを見て、園の運営が健全であるかどうかを確認することも、親として大切な役割です。

五、保育士のみなさんへ――転職のときに見ておきたいこと

保育士として働く皆さんにとっても、今回のような事例は他人事ではありません。

転職活動中は、つい「給与」や「休日日数」だけを見がちですが、実は「法人全体の運営姿勢」も大きなポイントです。以下の点に注目してください。

  • その法人は、複数の園をどう管理しているか
  • 園長や施設長が現場を尊重しているか
  • 経理や庶務のサポート体制が整っているか
  • 定期的な振り返りや研修が用意されているか

また、監査結果が公開されていれば、必ず目を通してください。指摘があったとしても、それにどう対応しているかが重要です。改善を誠実に行う法人であれば、むしろ安心して働ける土台があると言えるでしょう。


まとめ――信頼は、日々の積み重ねから生まれる

どんなに理想を語っても、現場に余裕がなければ、すべては絵に描いた餅に終わってしまいます。だからこそ、私たち一人ひとりが「選ぶ力」を持つことが大切なのです。

保護者として、保育士として、あるいは地域の一員として、「この園は信頼できるか?」「子どもの育ちにふさわしい環境か?」と自分の目で確かめ、声をかけ、つながりを持っていくこと。それが、よりよい保育をつくる小さな一歩になります。

そして忘れないでください。いま目の前でがんばっている保育士さん、そして親として悩みながら日々を送る皆さんこそが、社会の希望です。あなたの選択が、明日の子どもたちの未来を支えているのですから。

<参考>世田谷区 指導検査について
https://www.city.setagaya.lg.jp/01044/1632.html#p4


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