火事と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?
炎、煙、サイレン、そして、守りたい人の顔——。
私たちの日常の中で、つい後回しにしてしまいがちな「防火」という仕事。
でも、その目に見えにくい努力こそが、保育園という場所では、とても大切な役割を果たしています。
令和3年、東京都世田谷区にある区立保育園7園で行われた指導監査で、「消火訓練が未実施の月があった」「防炎性能を有しないカーテンが使われていた」といった指摘がありました。
これは、私たち保育を預ける親にとっても、保育の現場に立つ保育士にとっても、ただの事務的なミスで片付けてはならない、大切な“サイン”です。
この記事では、このような背景がどこから来ているのか、なぜ大切なのか、そして今後、どのような保育園を私たちは選ぶべきなのかを、ていねいに考えていきたいと思います。
この記事でわかること
- 世田谷区立保育園で指摘された防火体制の問題点とその背景
- 本来、保育園で行うべき安全対策とは何か
- 保育園を探している保護者が注目すべき安全への配慮ポイント
- 転職活動中の保育士が知っておきたい、良い職場選びの視点
- 子どもたちを守るために必要な、小さな積み重ねの大切さ
「未実施の消火訓練」という指摘に込められた意味
世田谷区が実施した令和3年度の指導監査では、7つの区立保育園において「消火訓練が未実施の月があった」という記録が残されています。
指摘を受けた区立保育園は下記のとおりです。
施設名 | 施設所在地 |
わかくさ保育園 | 経堂1-25-11 |
守山保育園 | 代田6-21-5 |
奥沢西保育園 | 奥沢8-4-14 |
船橋東保育園 | 船橋5-14-19 |
希望丘保育園 | 船橋6-25-1 |
小梅保育園 | 喜多見2-10-41-101 |
松沢保育園 | 上北沢1-32-3 |
月に一度、避難訓練や消火訓練を行うことは、保育園にとって義務です。ですが、子どもたちの発熱や感染症、職員不足や行事の準備など、「緊急で大切なこと」が目の前にあるとき、人はどうしても「地味で後回しになりがちなこと」を置き去りにしてしまいます。
保育現場の忙しさは、想像を絶します。
保育士さんたちは毎日、泣いたり笑ったり、眠れなかったりけんかしたりする子どもたちの命を背負いながら、限られた人数と時間の中で働いています。
そんな日々の中で、訓練の実施が抜け落ちてしまった月があった——これは単なる怠慢ではなく、「現場がいかにギリギリでまわっているか」の証左です。
しかし同時に、災害はいつ、どこで起きるかわかりません。
子どもたちは自分の身を守る術を知りません。だからこそ、私たち大人は、“しておくべきこと”を、どんなに大変でも“しておかねばならない”。
「忙しいからできなかった」は、子どもたちを守る世界では、理由にはならないのです。
「防炎カーテン不使用」がなぜ問題なのか
防炎性能を持たないカーテンを使用していた、という指摘もありました。
火は、燃えやすい布地から一気に広がります。カーテンや絨毯、壁掛けの布製装飾——これらはすべて、火災時には“火の通り道”になる恐れがあります。
保育園に設置する備品や装飾には、「防炎ラベル」がついているものを使うことが義務づけられています。
これは、万が一の火災時に被害を最小限に抑えるための最低限のルールです。
では、なぜ、防炎でないカーテンが使われていたのでしょうか。
答えは、現場の「善意」と「無理」から来ています。
布の感触や色合いを大切にしたくて、保育士さんが自ら手縫いしたカーテン。
地域の方が寄贈してくれた、あたたかな柄の布製装飾。
「子どもたちにとって心地よい空間にしたい」という優しさが、安全基準のラインをほんの少し越えてしまった。
安全とあたたかさ。その間で揺れる保育の現実が、ここにあります。
保育園探しで親が見ておきたい「安全の目」
私たち保護者は、何を基準に保育園を選べばよいのでしょうか。
園庭の広さ、給食の内容、保育理念——どれも大切です。
でも、安全について、少しだけ“耳を澄ます”時間をとってみてください。
以下のようなチェックポイントが、園の“本当の姿”を浮かび上がらせてくれます。
- 避難訓練や消火訓練を「毎月しています」と明言できるか
- 保育室のカーテンや装飾に防炎ラベルがついているか
- 災害時のマニュアルがわかりやすく掲示されているか
- 保護者への防災説明会が開催されているか
保育士が忙しい現場の中でも、これらを丁寧に整えている園は、それだけで「子どもの命を大切にしている場所」と言えます。
保育士が転職時に見るべき「備えと支え」
では、保育士として働こうとしている方には、どんな視点が大切でしょうか。
安全管理が甘い職場は、いざというときに「あなたが矢面に立たされる」可能性があります。
自分の身を守り、そして子どもたちを守るためにも、以下のポイントに目を向けてみてください。
- 防災マニュアルの内容が定期的に更新されているか
- 消火器の設置場所や使い方を新人研修で教えてくれるか
- 防炎カーテンなどの安全備品が常設されているか
- 年に1度以上、防災訓練が職員間で真剣に行われているか
- 「忙しさの中でも、守るものを守る姿勢」が職員間にあるか
安心して働ける園は、子どもにも職員にも優しい場所です。
待遇や立地だけでなく、「安全に対する誠実さ」が見えるかどうか——それが、長く働き続けられる園選びのカギになります。
子どもたちを守るのは、ほんの少しの「面倒くささ」
消火訓練を1回実施するには、準備もかかります。
子どもに説明して、非常ベルの音に驚かないように配慮し、移動経路を確保し、泣き出した子に声をかけ、職員で振り返り……。
でも、その1回が、ある日、子どもたちの命を守る日になるかもしれない。
防炎カーテンを選ぶにも、コストや手間がかかります。
でも、それを惜しまない園こそが、本当に信頼できる園だと、私は思います。
保護者である私たちも、保育士であるあなたも、同じ目線で「子どもの未来」を守る仲間です。
誰かを責めるのではなく、「よくがんばってくれているね」と伝えながら、「ここを一緒に直そう」と言える関係性を育てていきたい。
まとめ:
「火の用心」は、保育の本質
消火訓練が行われなかった月。
防炎性能のないカーテン。
これらは、ただの不備ではなく、「保育の現場が抱える課題」の鏡です。
子どもたちは、大人が準備した環境の中でしか、生きていけません。
だからこそ、準備の質こそが、保育の質。
私たちは、日々の中で、目に見えない“安全”をどう積み重ねていくかを、改めて考えたい。
火を使うような大きな事件が起こる前に、気づき、直す。
それが、本当の意味での「火の用心」です。
子どもを育てる人へ。子どもを預かる人へ。
そして、子どもを信じているすべての人へ——。
どうか今日も、「大丈夫だよ」と言える社会でありますように。
<参考>世田谷区 指導検査について
https://www.city.setagaya.lg.jp/01044/1632.html#p4
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