保育園を選ぶとき、私たちは何を基準にしているでしょうか。
きれいな園舎、駅からの距離、保育士の笑顔、あるいは人気ランキングの高さ──それらはもちろん大切な要素です。
けれど、その裏側にある「働く人たちの安心」はどうでしょうか。
令和5年9月11日、調布市のGakkenほいくえん国領で行われた行政による指導監査において、「給与規定の内容が不十分である」との指摘がなされました。
給与規定──それは、保育士という大切な仕事に就く人たちの生活を支える根幹。
その仕組みに曖昧さがあるということは、保育の現場にどんな影響をもたらすのでしょうか。
本記事ではその背景と本来あるべき保育の姿、そして保育士が転職時に大切にしたい園選びの視点について、ていねいにお伝えしたいと思います。
この記事でわかることのポイント
- 「給与規定の内容が不十分」とはどういうことか?
- 保育士の処遇が子どもたちの保育環境にどう影響するのか
- 保護者が園を選ぶ際に知っておくべき“裏側の大切なこと”
- 転職活動中の保育士が見るべき“本当の園の顔”
- 保育に関わるすべての人の努力を支える社会のかたち
第1章:「給与規定が不十分」とは、どういうことか?
給与規定とは、保育士や職員がどのような基準で給与を受け取るかを定めた“安心の設計図”です。
たとえば、以下のような項目が含まれているべきです。
【図表1】給与規定に含まれるべき基本要素
項目 | 内容例 |
---|---|
基本給 | 資格・経験年数による月給の基準 |
各種手当 | 通勤手当、住宅手当、資格手当など |
昇給基準 | 勤続年数や評価制度に基づく昇給ルール |
賞与の有無 | 年2回支給、評価による変動など |
残業代の規定 | 法令に基づいた時間外手当の支給方法 |
非正規雇用者の処遇 | 契約職員やパート保育士への支給基準 |
指摘された「不十分さ」とは、これらの情報が曖昧または未記載である状態を指します。
曖昧な規定では、職員の評価も処遇も「裁量」に任されやすくなり、職場の透明性が損なわれます。
第2章:保育士の「安心」が子どもたちを守る
保育士の不安定な雇用環境は、意外にも保育の質と深くつながっています。
たとえば、給与や昇給のルールが不透明であれば、どれだけがんばっても報われないという気持ちになります。
この「報われなさ」は、じわじわと心を蝕みます。
【図表2】保育士の処遇と保育の質の関係性
保育士の状態 | 保育への影響 |
---|---|
給与が不安定 | 離職率の増加、保育の継続性の低下 |
昇給基準が不透明 | モチベーションの低下、質のばらつき |
評価制度が曖昧 | チームワークの崩壊、不信感の醸成 |
子どもは、変化に敏感です。
担任の先生が急にいなくなれば不安になります。
園全体に余裕がなければ、子どもとていねいに向き合う時間は減ってしまいます。
第3章:保護者が「見えないもの」に目を向けるとき
保護者が保育園を選ぶ際、次のような“見えない部分”にも意識を向けることが、結果的に子どもを守ることにつながります。
【図表3】園見学で聞いてみたい質問リスト
質問内容 | なぜ重要か |
---|---|
職員の平均勤続年数は? | 離職率の目安になる |
年度途中の退職者数は? | 突発的な退職が多い場合は注意 |
昇給や評価制度は? | 職員のやる気と処遇の連動性を見る |
就業規則や給与規定の閲覧は可能? | 誠実な運営姿勢かどうかを確認 |
これらの質問に誠実に答えてくれる園は、透明性のある運営をしていると判断できます。
見えない部分を尋ねる勇気は、子どもを守る手段でもあるのです。
第4章:転職活動中の保育士へ──「あなたを大切にしてくれる園」を探すこと
保育士が転職を考えるとき、園の保育方針や雰囲気だけでなく、「働き方の約束」がきちんとあるかに注目してください。
【図表4】転職時にチェックしたい5つのポイント
視点 | 内容 |
---|---|
1. 書類の開示 | 給与規定や就業規則が閲覧できるか |
2. 定着率 | 平均勤続年数や退職率の確認 |
3. 人間関係 | 園長・主任の人柄や誠実さ |
4. 昇給制度 | 明文化された評価制度の有無 |
5. 雇用契約 | 試用期間、条件明示の具体性 |
「自分の時間や努力を、正当に評価してくれるかどうか」。
それは、誠実に保育と向き合っていくための大切な選択です。
第5章:保育という営みを、みんなで支える社会に
給与規定という“事務的な話題”が、ここまで保育の本質に結びついていることに、驚かれた方もいるかもしれません。
けれど、私はこう思うのです。
「人が人を育てる仕事」を支えるのは、仕組みの誠実さであると。
保育士が安心して働ける環境は、子どもたちが安心して育つ環境そのものです。
その安心は、私たち保護者が選びとることで守ることができるし、
保育士自身が「選ぶ力」を持つことで築くこともできるのです。
まとめ:見えない安心が、子どもを守る
保育園選びの目に見える部分と、見えないけれど大切な部分。
その両方に目を向けることが、子どもたちの未来を守る選択です。
給与規定の不備という一見地味な指摘は、
実は保育の土台を揺るがす深刻な問題であることがわかります。
そして、保育士という仕事の誇りは、
きちんと報われる仕組みによってこそ育まれるのです。
保育士のがんばりを、保護者の選択で支える。
保育士が、自分の価値にふさわしい園を選ぶ。
そんなやさしい循環が、日本の保育をよりよいものにしていく──
私はそう信じてやみません。
<参考>調布市 特定教育・保育施設の指導検査
https://www.city.chofu.lg.jp/050010/p027027.html
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