保育園選びにおいて、私たちが真っ先に見るのは、建物の美しさや先生の雰囲気、園の教育方針かもしれません。でも、それだけで十分でしょうか。今回は、横浜市鶴見区にあるSEA KID保育園で行われた令和5年の指導監査の内容をもとに、「お金の使い方」と「保育のあり方」について考えてみたいと思います。
この記事でわかること
- 指導監査で指摘された「拠点区分間の資金貸付」とは何か
- 保育所委託費とはどんなお金で、なぜ厳格に使う必要があるのか
- こうしたお金の問題が保育にどんな影響を与えるか
- 保護者が園を選ぶ際に見るべき「見えない視点」
- 転職を考える保育士が確認しておきたい園の「経営の誠実さ」
1.そっと、見落とされがちな「お金」の話
保育園という場所は、朝から夕方まで、子どもたちの笑顔と泣き声とともにある「生きている」場所です。そんなにぎやかな現場の裏側で、実はたくさんの数字と帳簿が、日々静かに動いています。
横浜市のSEA KID保育園で令和5年7月12日に行われた指導監査において、次のような指摘がありました。
年度末において、保育所委託費を財源とする拠点区分間の資金貸付があった。年度を超えた資金貸付については、すみやかに清算すること。
この一文だけを読むと、「それの何が問題なの?」と感じるかもしれません。でも、これは保育の質を守るために、とても大切な指摘なのです。
2.保育所委託費とは何か?
まず、「保育所委託費」とは、国や自治体が保育園に支給するお金です。これは、保育士の人件費や、園で使う教材費、食材費、そして施設の管理費など、子どもたちのために使うべきお金です。
一方で、企業が複数の保育園を運営している場合、それぞれの園は「拠点」として分けられ、それぞれに支給される委託費は「その園のため」だけに使わなければなりません。
ところが今回、SEA KID保育園では、この保育所委託費を「他の拠点に貸し付ける」というかたちで一時的に動かしていたことが明らかになったのです。
3.なぜいけないのか──お金と保育の信頼関係
このような資金移動は、経営的な事情があるとはいえ、保育の現場から見ると大きな問題です。なぜなら、そのお金は「この園の子どもたち」のために支給されたものであり、他の園の経営や支出に使われることは許されていないからです。
本来であれば、年度が終わるまでにきちんと帳尻を合わせ、資金の移動があった場合には速やかに戻しておかなければならない。けれど、それがなされていなかった。これは経営側の誠実さが問われる場面です。
子どもたちは、数字や帳簿とは無縁な存在に見えます。でも、その笑顔や安全、食べるごはんや遊ぶおもちゃ、そばで支える保育士の存在は、すべて「適切なお金の流れ」のうえに成り立っています。
4.保育園を探す親として、何を大切にすればいいか
私たち保護者は、園のホームページや説明会、あるいは口コミで保育園を見ていきます。もちろん、先生のやさしさ、建物の清潔さ、カリキュラムの内容など、見るべき点はたくさんあります。
でも、ひとつ加えてほしい視点があります。それは「経営の透明性」と「誠実さ」です。
たとえば、以下のような質問を園に聞いてみてもいいかもしれません。
- 「監査の結果はどこかで公開されていますか?」
- 「保育士の配置基準をどのように守っていますか?」
- 「お金の管理はどのようにしていますか?」
これらの質問に、あいまいにせず、真摯に答えてくれる園は、おそらく誠実な運営をしているはずです。
5.保育士として、園を見るときの目線
転職を考えている保育士にとっても、「給与」や「人間関係」だけでなく、経営体制の信頼性を見極めることは非常に大切です。
なぜなら、お金の流れがきちんとしている園は、保育士の処遇改善にも誠実に取り組む可能性が高く、また問題が起きたときに隠さず対応してくれるからです。以下のような点に注目してみてください。
- 経営母体の財務状況は公開されているか?
- 園長が現場にしっかり関与しているか?
- 職員会議で情報が共有されているか?
- 監査結果が職員にも開示されているか?
保育士としての誇りと安心を保つには、職場の誠実さが何よりの土台になります。
6.応援したい、すべての子育てと保育の現場
今回の指導監査は、ひとつの園に対する指摘に過ぎません。でもこの出来事は、子育てをする親、子どもを育む保育士、そして園を支える地域全体が「本当に大切にしたいものは何か」を考える、よいきっかけにもなりえます。
わたしたちは、保育園を選ぶときに、保育士として働くときに、「見えるもの」に目を奪われがちです。でも、「見えないもの」の中にこそ、本質はある。お金の管理、誠実な運営、丁寧な対話。そこにあるのは、子どもをまんなかに据えた「人の仕事」です。
まとめ
SEA KID保育園の指導監査から見えてきたのは、「お金をどう使うか」は「どう保育するか」に直結している、という当たり前のようでいて見落とされがちな真実でした。
保護者としても、保育士としても、私たちが大切にしたいのは、華やかな理想よりも、足元の誠実さです。そして、そうした誠実さを積み重ねている保育園を見つけ、応援し、選び取ることが、よりよい未来をつくる第一歩なのだと思います。
保育とは、愛と責任、そして信頼の仕事。あなたの選ぶその一歩が、子どもたちに届いていくのです。
<参考>横浜市 指導監査結果https://www.city.yokohama.lg.jp/business/bunyabetsu/kosodate/ninka/kanendokekka.html
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